断章
――なるほど、事情は把握した。……呑み込めはしたがな。なんでよりにもよって俺に相談するんだよ。こないだ初めて顔合わせしたばっかりだろ?
「『姉』たちに聞いた。彼女たちはまがりなりにも『聖女』の一部を持っている。だから客観視というものができない。だが、あんたなら知ってるだろう、『彼女』が何者たるかも、『彼女』の御し方も」
――言っておくが、俺でも『あれ』は無理だったぞ。『あれ』はもはや人間の幸福を捨てている。そういう生き方をえらんでしまった。ただ、ひとつだけ言えるのは、司馬大悟の言ったことに間違いはない。危険をおかして付き合うほど愉快な人物じゃないぞ、あれは。
「……知っている」
――知っててなお、あいつに接したいのか。
「俺には……『聖女』の、『母』の記憶がない」
――持ってたら、こうして俺と額突き合わせて話なんて、できないさ。
「生まれながらにして俺は孤独で、家族や血のつながりというものがなかった。『だからこそ苦しむことがないのだ』とほかのクローンたちはうらやむが、だからこそ、その『姉』たちの苦悩が理解できない。『母』が何を思って、どういう人物だったのかも。そのこと自体が、ここのところむしょうに、辛くなってきた」
――なんで、それを俺に言う?
「さぁ、なんでだろうな。早瀬さんたちに素直に打ち明けられていればよかったのに」
――状況が状況だ。話は『あいつら』に通しておくが、俺も居候の身だからな。俺ができるのは帽子を脱いで頭を下げるだけだぞ。お前の頼み、受けるかどうかはあのヘソ曲がりども次第だ。それは承知してくれ。
「十分だ。感謝する」
――良いよ。そっちの正体を見せてくれたんだ。信義は通すさ。この間の貸しもあるし、今日もラーメンおごってくれたしな。このナリだとなかなか外食ってむずかしいんだよ。……あと、国家機関の重鎮に貸しをつくっておくのも悪くない。
「ふっ、それこそ公僕に期待してくれるなよ」
――あ、それと理由はもうひとつ。
「まだあるのか?」
――かわいい甥っ子のためだしな。
「……」
――俺が言うのもおこがましいが、生まれはどうあれお前は孤独じゃない。だからこの結果がどうなろうと、ちゃんと周囲を見渡してみるんだな。




