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第七幕 腐っても親は親。皆さん、親孝行をしましょう



俺が幼い頃、仕事の関係で海外を飛び回ることが多かった親父は、家に帰るのも年に二三度とかいうペースであり、当時の俺といえばそんな根無し草な親父がいつ帰るのかと待ち望みながらもキャッチボールをする親子を羨望の眼差しで見ていたりと、なかなか可哀想な幼少期を送っていた。

しかしうちに帰れば、明るく破天荒な母が笑顔で俺を迎えてくれたし、月に一度とはいえ帰ってきた親父は俺との時間を第一に考えて遊んでくれた。

なので決して寂しいということはなく、寧ろ幸せな家庭だと思っていたくらいだ。

絆の深い家族だと思っていた。自慢できる家族だと思っていた。その頃俺はそう信じてたのだ。


しかし、そんなものは俺が中学の卒業式を終えた翌日に泡となり消えた。


「あのね、パパとママは離婚することになったの」


親父の帰国と俺の卒業祝いを兼ねてどこぞのレストランで食事をとっていた最中、突如として我が母はいつもは見せないような至極真面目な表情で、そんなことをのたまったのだった。


「は?」


その発言に対し、俺は口に運ぼうとした料理をポロリと落として、思わず間抜けな声をあげてしまった。


母上様、今なんとおっしゃいマシタカ?確か離婚がどうとか…いやいや、ありえねぇっしょ?いくら春とはいえ今はまだ3月ですぜ。エイプリルフールはまだ先だよ、このオッチョコチョイめ!


「嘘でも言っていいことと悪いことがあるぞ。第一今日は祝の席なんだから、そんな不謹慎な冗談はよしてくれよ」


俺はなるべく平静を装って、そう返答してやった。


すると母は急にニカッといつもの笑顔で

「ごめんごめん」何て言うもんだ。

俺は内心ホッとしながらも

「勘弁してくれよ」とヤレヤレなジェスチャーをして、食事を再開しようとフォークを握り…


「嘘でも冗談でもないの」


今度はそのフォークを皿の上にカッシャーンと落としてしまった。


その音に他の客たちは何事かと一瞬俺たちの方を見るが、すぐに視線を自分たちのテーブルへと戻し、また食事に、談笑に花を咲かせる。

みんな楽しそうな笑顔で笑っている。例外は俺たちのいるテーブルのみ…てかさっきの笑顔は何だったんだよ!


「いや、私らしくないかなと思って」


んなもん知らねえよ!


マジでキレちゃいそうな俺は、どうにか落ち着こうとグラスに入った水を一気に飲み干した。まぁ、こんなことで落ち着けるほど大人じゃありませんけどね!ぼかぁ!


空いたグラスを乱暴に置くと、俺はキッと母を睨みつけた。決して憎しみを視線にこめているわけではない。説明を求めているのだ。

「ちゃんと説明しろ」と。そのサインなのだ、これは。


母はそのサインをどうやら読み取ったらしく、また真面目な顔をして話し始めた。


「実はね、私。好きな人ができちゃったの。その人は私の中学校の時の同級生でね。少し前に同窓会があったんだけど、その時再会してね。でもまだその時は別に懐かしいな、ってそんな気持ちだけだったんだけど。何度か会ううちに惹かれあったっていうの?お互い好きになっちゃってて。つい先日彼の方からプロポーズされちゃったの。

「僕のパンツを洗ってくれ」とかなんとか…。正直それはどうよと思う反面、凄くときめいている私がいて。でもね、私は

「二人ともいい年だし家庭もあるから駄目よ、こんなの」ってね、言ったんだけど、そう断ったんだけどね私は。彼ったら

「僕はバツイチ子持ちだから全然O.K.!」何て言うもんだから、私またクラッときちゃって…」



…なぜそんなに捲くし立てるように喋るのか、母よ?何はともあれ、衝撃的事実発覚ですよ皆さん。


「つまり浮気してたってことか?」

「…うん、そう…」

うん、そう…っじゃねぇよ!いい年扱いて何考えてんだお前は!


状況をようやく理解した俺の怒りはフルスロットルに。俺は母を叱咤し、罵るためにテーブルへと身を乗り出した。


「止めなさい」

しかしそんな俺を横から手で制する親父。親父は首を二三度横に振ると俺を席に座らせようと肩に手をおいた。


「何でそんなに冷静でいられるんだよ!」

「親父は裏切られたんだぞ!」等々、言いたいことは色々あったが、止めた…。


どんなに冷静であろうが一番傷ついているのは親父のハズだ。その親父がやめろと言った。これ以上母さんを責めるな、と…。ならもう俺がとやかく言うことでもない気がしたのだ。


俺は大人しく席につくと親父に視線を送った。親父はそんな俺の様子に力なく笑みを浮かべる。

「私は大丈夫だ」と俺を安心させるかのように…

この時俺は心に誓ったのだ。どんな事があっても俺は親父を裏切らないと。いつ帰ってきても俺だけはこの人を迎え入れてやろうと…



そう誓ったはずだった。



しかし俺はこの後、たった今たてたはずのこの誓いをものの数十秒で撤回する事となる。



「まぁ、それはさて置き…実は今日はお前に会わせたい人がいるんだ」


「は?」


いきなりのその発言とほぼ同時に、どこから出てきたのか謎の女性が俺たちの前に現れた。


「シャッチョーサーン!マチクタビレタヨー!」


片言な日本語。顔立ちも日本のそれとは違う。アジアンテイストな美女が親父の首に腕を回して抱きついてきた。

そんな彼女を親父は

「おいおい、こんな所でよさないか」何てなだめつつも満更でもない御様子で…えーと、つまりコレって…?


「紹介しよう。彼女の名はアイリン。見ての通りフィリピン人だ。彼女との馴れ初めはそう…一年前のある雨のことで…」




………正直呆れてものも言えない状態だが、あえてつっこましてもらおう…。




お前も浮気してたんかぁい!







そこで、俺は目を覚ました。

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