第六幕 楽園ってのは意外に近くにあるのかも知れない
「ふっふっふっ…バレちゃあしょうがない!そうさ!俺は生粋の変質者!悪戯されたくなかったら大人しくこの家を明け渡し、この場からそうそうに立ち去るがいい!」
俺のそんな突拍子もない発言に、彼女の顔は見る見るうちに青ざめていく。人がドン引きした瞬間というものを、俺はこの時初めて目の当たりにした。
「よ…寄るな変態!」
さっきまで気丈な態度をとっていた少女は、一転して慌てふためいている。
そこで俺は思ったね。
あれ?これイケんジャネ?と。
血迷ったことを言ってしまったと思ったが、このまま脅しをかけていけば彼女は逃げ出し、とりあえず土地だけは取り返せるかもしれないぞ?…と。
しかし彼女を追い払っても、この扉が開かない以上、この土地の奪還などあり得ないわけで、その考え自体がすでに血迷っているわけだが、どうにもこうにもその時はそんな期待が先行して俺は間違いに気がつかないまま、その変態トークによる畳みかけに入ってしまった。
「ぐっへっへっ、お嬢さんの柔肌をタッチング!そして俺はヒーティング!」
言い逃れようのない変態の出来上がりである…。
「………」
そんな俺に、もはや言葉もでないような彼女。彼女は俯き、腕を震わせている。
その様子に
「あらあら、泣いちゃった?ちょいとやりすぎたかしらホホホホホ」何て罪悪感を感じていると、
ピンピコリ〜ン
変な効果音とともにどこからともなくあの巨大ハンマーが出現した。
あれ?どこから出したんですか、そのハンマー?そしてあなたは何故それを大きく振りかぶって…
「死にさらせ…!」
その言葉と同時に、彼女はその巨大ハンマーを恐ろしいスピードで俺目掛けて振り下ろした。
「へ?」
その速さは体育の成績3(五段階評価)という平々凡々な俺の運動能力では到底かわし切れるものではなく、しかもそんなスピードで巨大なハンマーが振り下ろされるのだから当たれば即死確実。
やばっ…
今更ながら生命の危機を感じ取った俺だったが、時すでに遅し。ハンマーはあっと言う間もなく距離をつめると、俺の視界をその身で覆い尽くした。
そこには目を背ける隙はおろか、死を覚悟する余裕すらもない。あるのは一瞬の恐怖と一生分の後悔のみ…
あー!あんな発言しなきゃよかったぁ!ぎゃあぁぁ!マジで死ぬぅ!
死神の鎌ならぬ少女のハンマーは直撃まで後ほんの数センチというところまで俺に迫り
「止めてリダ!!」
ピタリと、その動きを止めた。
「あ…ぁ…?」
よくわからないが…助かった?
そうわかった瞬間、体中から汗がドッと噴き出し、俺は膝から崩れ落ちた。
どうやら恐怖がやっと体にも伝染したらしい。
マ、マジで本当に恐かった!生きてて良かったよー!
「姫…止めるな。こんな変態は死んだ方が世のためだ」
俺がそんな風に生きていることを実感している中、もはや俺のことなど見もしないで少女は俺を隔てた誰かと話している。
そういや誰かの叫び声が聞こえたような気がする…やめてとかなんとか。ありがてぇ、どなたか存じ上げませんがあんたは命の恩人ですよ!
俺は少女の視線の先にいる救い主にどうにか御礼を言いたくて立ち上がろうと体を動かした。
しかし、恐怖で縮こまった体は思うように稼働してくれず、
「あ、あら?」
俺はバランスを崩し、ステンと背中から転げ、仰向けに倒れた込んでしまった。
「え?」
結果。俺は寝転んだ状態で、その恩人と対面したわけだが…どうにもこのアングルは、礼を尽くすこの状況には適さないようで…
「っ………!」
彼女の顔はあっという間に真っ赤になり、そしてみるみるうちに憤怒の表情へと移行する。あーぁ、結局このパターンかい。
俺は次にくる展開を見越し、もうどうせならもっと見てやろうと首を亀のように持ちあげて、天井の楽園を凝視した。しかしそれがいけなかったのか、
「こ、この変態!」
がすん!
彼女に思い切り顔面を踏まれたことにより、俺は頭を打ちつけてしまい、俺の意識はまたすっ飛ばされることとなった。
いや、もう死んでも悔いないですけどね〜。なんてことを思ってる俺ってやっぱり変態なのかと考えてしまう十五の朝方のお話…。