ルーレット 1周目
「〔私が16歳になったら〜〜〜〜〜あげる!〕」
母がその言葉を訳して僕に伝える。
「わかった!待ってる!」
どこか聞いたことがある外国の言葉。とても大切な約束なのは覚えている。あれはなんの約束だったのか、ぼくは思い出せない。
日の光がカーテンの隙間から差し込んでくる。なんて寝心地がいいんだろう。
「このまま布団の中に居たい…」
そんな事を思っていると、遠くから妹の声が聞こえてきた。
「にいちゃん学校遅れるよ〜? 中学校の倍近くあるんだよ、高校。」
「なにいってんだ信濃、俺が高校なんてなにいってんだよぉ〜お⁉︎」
妹のいった事を全て理解した。
今日から俺は高校生。そして今自分のおかさている状況も理解した。
「なんでもっと早く起こしてくれなかったんだよ!」
「何度も言いました〜。悪いはすべてにいちゃんです〜。」
朝から妹の嫌味を聞きながら急いで学校の準備をする。ドアを思い切り開けて長い廊下を早歩きで通って行く。
「でかい家はこれだからやだと言ったんだ」
一歩歩くたびにイライラがたまってきた。
しかし、今朝見た夢はなんだったのだろう?あんな昔のこと、なぜ今になって?しかも大事な部分聞こえなかったし…
「はあ、やっと着いたぁ。」
長い廊下を抜け、居間に着く。ここで休みたいところだったがそんな余裕はなかった。
「悪い信濃、今日は朝食べないで行く。」
いつもなら食べている飯も食べている暇はない、のだが…
「どんなに急いでても飯は食う、にいちゃん言ってた事でしょ。自分の言った事くらい覚えててよ、まったく。」
俺の弟は呉野信濃で、俺は呉野大和。武蔵は俺の妹にしてはよくできている。頭もいい、スポーツもできる。小さい頃から俺と遊んでいるからか男勝り。そして身長が高い。いや、正確には俺が小さくて妹がふつうなのだ。俺は身長が158㎝。高校生でだ。そして妹は161㎝。兄より身長が高いというのだ。これが一番ムカつくのだが、俺の事を最もしたってくれる俺の誇りの妹だ
「なら食べて行きますかね〜っと。」
座布団にあぐらで座り、目の前に並べられた弟の手料理を食べていく。
「にいちゃん行儀悪いよ、もう高校生なんだからそういう所しっかりしてよ!」
「わかったわかった。しかし信濃、また料理の腕あげたな、毎日こんなの食えるなんて俺は幸せものだ」
俺は知っている。
妹はおだてればなんとかなることを。
「褒めたって何も出ないよ〜、お兄ちゃん」
ほらきた。妹は機嫌が良くなるとにいちゃんに「お」をつける。とてもわかりやすい。
「ふぅ、お腹いっぱいだ。そんなら行ってくっからな。」
「うん行ってらっしゃいお兄ちゃん。あっ、ちょっと待って」
信濃が台所から出てきて唇を突き出した
「行ってきますのキスして〜」
「はいはい、行ってきますよ」
軽く唇を重ねてから玄関のドアを開けて学校へ向かう。うちの家は、母はパティシエでイタリア、父は国会議員をやっていて別のばしに住んでいる。だから、家には妹と俺の二人しか住んでいない。このキスは俺が中学入学のに、兄妹の繋がりを確かめるためにしている。
信濃に、「もう中3なのにこんなことしてていいのか」とたまに聞くが、「これは兄妹の絆を確かめてるだけだからいいんだよ!」といつも言われながら今に至る次第である。
「大和はいいよなぁ、あんな可愛い妹が毎日キスしてくれて!羨ましい限りだ!」
玄関を出てすぐ友達の日向直樹に絡まれた。日向とは生まれたときから隣の家に住んでいて、友達というよりは双子に近い。
「お前だって弟いるだろ?」
「お前はわかってない。なぜあんな可愛い気もない男とキスせにゃいけないの、やだよ、絶対に!」
「へ〜へ〜」
「お前俺をバカにして!」
「まあまあ気を治せって」
そんなくだらないことを話しながら学校へ向かった。
うちの周りは田舎だから、中学のメンツが高校に上がるだけのつまらないものだ。新しい出会いからの青春もない。つまらないものだ。
学校へ着いた俺達はクラス分担表を見にいった。そこには中学から一緒の奴だけ。
(やはり出会いがないとつまらん。)
そんなことを思いながら自分の名前を探していると、
「おい、外人の名前あるぜ!いや、ハーフかなぁ?しかも女子っぽい!でもどこの国の人なの?」
日向が目を輝かせて話しかけてくる。
日向の向いていた部分を見ると
『吹雪アナスタシア』
「あれはロシア人だな、ロシアの伝統的な名前だ」
と、日向に話している途中に気づいた。
(あれ、どこかで聞いたことあるなまえだ)
そんな疑問を覚え、自分の教室に向かった。
「はい、皆さんご入学おめでとうございます。わたしは今日から皆さんの担任の暁鈴と言います!よろしく!」
担任の自己紹介も終わり、休み時間だと思ったら
「あと、転校生というか高校から皆さんと一緒に勉強する仲間がいます。しかもその子は婚約者に会うためにロシアから日本に、そしてこの高校に入るそうです!」
教室中に動揺が走った。でも一番驚いたのは俺だった。
(今朝の夢、聞いたことある名前、婚約なんかした覚えないけどその他のことなら身に覚えがある)
そうこう考えているうちにその子が入ってきた。
「はい、この子がロシアからきた吹雪アナス…ってどこに行くの⁉︎」
その子は真っすぐ俺に向かってきた。
そして全てを思い出した、と同時に彼女は僕に抱きついてきた。
「おい、お前離せよ!おい、聞いてんのか!」
教室中の男子の視線が突き刺さる。
彼女は俺から離れた。
「久しぶり!大和!」
そう、こいつが夢の中の女の正体。
「ああ、久しぶりだな、アナ」
俺はその日、昔の約束の相手と再会してしまった。