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EE 第十四話 新たなる武器

 トレスヴュールの勝手口から裏庭に出ると、予想以上に大きな庭がそこに広がっていた。

庭と言えば日本でのイメージが強く、比較的裕福な家庭だった俺の家でもここまで広くはないだろう。

目算で奥行きが二十メートルぐらいある気がする。横の幅も大体同じくらいか?

建物も何もないだだっ広い空間があるばかりで、雑草がそこかしこに生えていた。

手入れはある程度しているのか、雑草の背はどれも低かったが。それにしても広い。

どうして酒場の裏庭にこんな物があるのだろう?

俺がそんな風に驚いたり不思議がっていると、後ろにやってきたガウェインがそのことを説明してくれた。


 「ここは元々は家があったんだけどな。老朽化して危ないからって取り壊しになってそのままってわけさ」


 トレスヴュールは取り壊しの前に出来たから、後でその土地を利用することも難しかったらしい。

土地の利権だとかあーだこーだは特に関心もなかったので割愛。

 まぁ確かにこの何もない空間だと遠慮をすることは少なそうではあるが、隣の家に魔術が飛び火した時が怖くないか。

そんな俺の心配事もいつの間にかやってきたミライが解決してくれた。


 「ここならミコトが思いっきり練習しても大丈夫だよ!私が周りの壁に魔術で結界張ったからね~」

 「うぉっ!ミライ、いつの間にやって来てたんだ。声ぐらい掛けろってんだ」

 「だってガウェインさんお店の方にいないんだもん。お酒の匂い苦手だし、お庭の方にいるのかなと思って」


 ひょっこりと顔をだしたミライはそんなことを言いながらガウェインに笑いかけていた。

二人、結構仲よさそうだな……知り合いというより友人関係のように思える。

というか、さっきの女の子も来ているじゃないか。


 「ティアちゃん、こんにちはー」

 「ミライさんこんにちはー!」


 二人は仲良く挨拶を交わしていた。その姿はまるで親子のようであるが、はっ、まさかガウェインが俺の父親!?

実は練習というのは口実で、ガウェインさんが貴方のお父さんよという展開!?

いやいや、ないない。

プリムラの時も親子みたいに仲いいなーとか思ってたじゃないか。気のせいだ、気のせい。






 俺は裏庭の真ん中あたりに突っ立って魔術の練習を始めることにした。

いきなりすぎる展開だったが、普段からありあまるMPを消化することなく魔術を使えないフラストレーションが溜まりに溜まっていたからちょうどいい。

カカシくん粉砕事件からまともに魔術使ってないんだよな。

プリムラの庭園は確かに広いがまた庭師たちに迷惑をかけるわけにはいかんし、そこ以外といったらスペースがない。

魔力のコントロールをつけるまでは控えた方がいいんだが、そのコントロールをつける練習も出来ない始末。

前途多難すぎて遠い目をして過ごす毎日だったんだ。

魔術をぶっ放すにはいい機会なんだが……。


 「非常にやりにくい……」


 ちらっと横に視線を向けると十分に距離を離した場所の木陰で、まったりと涼んでいるミライとティアがいた。

その隣にはガウェインが腕組みして興味深そうにこちらを見ている。

観賞する気満々らしい。

ミライはわからないでもないんだが、後の二人がちょっと……。

基本的に人の視線に苦手意識をもっているので、注目を集めているとわかっているとどうしても緊張してしまう。


 「ミコトー!そんなに気負わなくていいんだからねー!失敗しても結界があるから気にしないでー!」

 「おうじさまー!がんばってー!」


 応援してくれているが、今の俺にはプレッシャーにしかならないぜ。

ふぅ、だがいつまでも躊躇している場合でもないな。

精神集中も魔術師にとって大事な要因。いついかなる時でも心を乱してはいけない。

……ってプリムラが、教科書に載ってるえらい人がいってましたわ!って言ってた。

あの残念お嬢様が得意げな顔で言っている姿を思い出して、ちょっとだけ緊張がほぐれた。


 さて、後は自分次第だ。

そうして俺は心を落ち着けた後に、目の前に浮かんでいるいくつもの風の球を鋭い視線で睨みつけるのだった。

この風の球はミライの魔術というわけでもなく、ミライの精霊であるしーちゃんが魔法で用意してくれたらしい。

しーちゃんってなんやねん、と思わず突っ込みかけたがこうして手伝ってくれている以上、野暮なことは言うまい。

相変わらず精霊であるしーちゃんは俺の目にはっきり映らないが、確かにそこに存在している。

今も風の球を操りながら人型の歪みが俺の目線と同じ位置に滞空していた。

先ほど、俺がその歪みに向かって手伝ってくれてありがとう、と伝えると反応したかのように忙しなく飛び回っていた。

言葉は通じるらしい。

いつか本当にこの目でその姿を見れて会話できたらな、と思う。

将来の楽しみをまた一つ見つけて、俺は風の球に狙いをつけて魔術の詠唱を開始したのだった。





 それから一時間後。

魔術をぶっ続けで使ったのはいいが、体力の方がそろそろ限界を迎えていた。

MPはまだまだ余っているのだが、精神的にもそろそろきつい。

 というか、このしーちゃんとやら、俺をいじめてないか?

最初の頃はただ風の球を滞空させて、そこに俺の魔術をぶつけるだけだったのだが……。

時間が進むにつれ風の球が縦横無尽に暴れ始めた。時には俺に向けて突っ込んできたりした。

慌てて回避するものの、たまに避け損なって当たってしまう時もある。

風の球はちょうど野球ボールぐらいのサイズで、当たったとしてもしーちゃんが制御しているおかげか体を押し出されるぐらいだ。

しかし俺がそのせいで尻餅をついたりしている姿を見て、歪みの向こうであの精霊は腹を抱えて笑っている気がする。

それがひっじょうにむかつく。

一矢報いてやろうと必死に魔術の相殺や、詠唱の高速化を狙って見たがうまくはいかなかった。

 だが高速思考がこんな時に役立つと知れたのは収穫だった。

状況判断にこのスキルはかなり使える。

それに高速で動く風の球に狙いをつけたり、威力の調整をしたりして、魔術にもちょっとは慣れたような気がする。

まぁ魔術習いたての俺にしてはえらくハードな練習内容だったが。

今度は手加減してくれるように……いや、この精霊に手加減してもらうのもなんだか癪だな。


 ともかく、休憩だ!しーちゃんにそのことを伝えると、なんだか残念そうにしていた。

こいつドSかよ……。

背筋に薄ら寒いものを感じてぶるりと体を震わせた所で、俺は違和感に気付いた。

なんか、腕が、中二病っぽくなってる……。


 「なんじゃこりゃあああああああああああ!?」





 「ミコトのスキルのおかけで見えているのかな?魔術を使い過ぎちゃったんだね。どこか体があつい感覚がしない?」

 「そういえば……」


 俺がパニックを起こしつつミライたちの下へと走り寄って事情を説明すると、ミライは落ち着いた声で説明をしてくれた。

確かに体がどこか火照っているような感覚はあるが、これは風の球を避けたりして走っていたからだと思っていた。

使い過ぎによる後遺症みたいなものか?

それにしてもなんかこれ無駄にかっこいいんだが。

魔術を使っていた右腕を中心に陽炎みたいなものが纏われている。

炎のようにちりちりと揺らめき、白くぼんやりとした色合いをしていて腕を動かせばそれについてくる。ちょっと面白い。


 「それはね、魔過(まか)っていう……うーんと、何て言えばいいのかな。病気じゃないんだけど、うーんうーん」

 「そりゃああんだけ魔術唱えればそうなるわな。まだ余力ありそうだし、とんでもねぇ。さすがミライの息子だ」

 「なんだかわかんないけど、おうじさますごーい!」


 これは魔過っていうのか。まぁ病気でも悪いものでもなければどうでもいいんだが。

ミライの口ぶりからして悪いものじゃないよな?


 「魔過になった人は大抵すっごい魔術使ってそうなっちゃうから、MPが先になくなっちゃうんだよね……。魔過になっても魔術使った人は聞いたことないかも……」


 え?何それ。ちょー不安なんですけど。

MPめっちゃ多いぞやったー!って無邪気に喜べなくなってきたんだが。

にしても魔過か……推測するに、魔過はオーバーヒートみたいな状態なのかもしれない。


 「治しちゃう方法はあるんだけどね。それは中級の強化魔術っていうもので、今のミコトにはちょっと早すぎるかな」


 どうやら体を冷却させる方法はあるらしいが、まだ習うには早い段階みたいだ。

魔力のコントロールも覚束ない俺には仕方のない話だ。

だけど弱ったな。俺の長所がこれで潰れることになるかもしれない。

魔術の練習をしまくってめきめき上達し、ミライにすごーいと褒めてもらう予定だったのだが。早くも頓挫してしまった。

いずれ解決する方法があるとはいえ、どうにかできないものか。

ため息をついて問題児である右腕によくよく目をやれば、もう一つ気付いたことがあった。


 (これは……?)


 うっすらと陽炎と似たような線が腕の中に走っている?

目を凝らさなければわからない程度だが、確かにそれは存在している。

俺は薄気味悪いと思うよりも前に、直感的にそれが魔力なのだと感じた。

視覚で魔力を見れるようになったのは、俺のスキルであるトゥルースサイトのおかげだろう。

どちらにせよ好都合な話だ。

見れるようになっただけでも魔力の流れがわかるようになり、これからに役立つことだろう。

 何かそれぞれを利用して魔過も解消できるといいのだが……。

強化魔術、か。

強化魔術を使うと何故魔過は治るのだろうか?そこのところを突き詰めると、何か突破口が見えてくる気がする。

魔術は精神の集中を用いて、正確な詠唱を声にのせることで顕現する。

ならば詠唱を省いて、魔力のみを自分で操作したらどうだろうか。魔力の流れはこの目のおかげでわかりやすい。

もしかしたら、詠唱を用いなくても強化魔術を再現できるかもしれない。

魔術の亜種になるだろうが、それで魔過も治せることが出来れば御の字だ。


 「ねー。おうじさま?おやすみするんだったらその間わたしとおはなししよー」

 「ぐ、ぐぬぬ……。これから俺は夜の準備があるし、これ以上見張っているわけにも……」

 「ガウェインさん大丈夫だよー。自分たちの子供がお互いと結婚することになったら素敵なことじゃない」

 「うわああああああああああああ!!!やめろおおおおおお!!!そこまで話を飛躍するんじゃなあああああああああい!!!!」

 「おとうさんうるさいっ!」

 「う、うるさ……!?」


 まぁ考えることは後にして、今はあの喧騒の中に飛び込んでいくのも面白いだろう。

俺は娘にうるさいと言われて大打撃を受けているガウェインに言葉の追撃を仕掛けようと、三人の輪の中に入り込んでいくのだった。

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