EE 第九十六話 噂の真相を突き止めろ!その一
7/19にようやく更新。
これはとある男子学生たちの勇気と希望のお話。
真実を追究し、夢を追い求めた男たちの物語である。
グリエント学校魔術科一年。名もなき葉っぱと揶揄される緑のクラス。
最底辺の実力とされ、馬鹿にされることも多いクラスである。
最近になって一学生が注目された事により評価が改められた傾向があるが、未だに風当たりは強い。
小さなものから大きなものまで、厄介な火種はいつでも燻っている。
さて、そんなトラブルの温床である緑のクラスでは三人の男子生徒たちが固まって話していた。
それぞれ難しい顔で唸っており、揉め事の匂いがぷんぷんと香っている。
また他の色のクラスとの騒動を起こしたのか、はたまたその前触れなのか。
その中の一人が唐突にばっ、と顔を上げた。
二枚目と三枚目の中間ぐらいの顔。角度によってはかっこいいけど他は微妙という男子生徒だった。
握り拳を掲げてキリリと表情をつくる姿は残念なことにちょっぴりブサイクだった。
しかしながらその顔は熱く燃え滾って決心を宿しており、まさしく漢と表現すべき本気の顔であった。
何を言おうとしているのだろうか。キメ顔のままでいよいよその男子生徒は言い放つ。
「やはりあいつが男かどうか、調べるべきだ!!」
と、他の二人にしか聞こえないような小ささで、器用にも決然とした声をあげる二点五枚目。
意味不明な言葉の中身はさておくとしても、それは絶妙な匙加減で他の二人の耳にしっかりと届く。
彼の名前はマークという。ミコトと同じクラスの生徒である。
うんうん、と頷くのは他の二人の生徒であった。
一人は開いているかもわからない細目をしながらそうだなと同意を示していた。
もう一人は偉そうに腕を組みながら鷹揚に頷いていた。
順にトーマス、エドという名前の男子生徒である。
彼ら三人はグリエント魔術学校に来てから知り合い、なんやかんやと意気投合して仲良くなった友だちだった。
性格は三人とも違うが、だからこそ噛み合っているのだろう。
昔から知り合いでもあったかのような仲のよさで、よくつるんでろくでもないことをしていることから三馬鹿と呼ばれていた。
三馬鹿の内の一人。中途半端な見た目の良さのマークが同意を得られたことに笑顔を浮かべる。
彼らの議題――なんか響きがいいから議題といっているが要はただの馬鹿話――にあがっている、あいつ、とは誰なのか。
それは最近になって転入してきた規格外の生徒のことであった。
見た目はまさしく容姿端麗という言葉が当てはまる美しさ。微笑めば男女かまわずに虜にする。
成績は優秀で緑とは言わず黒でも通用する頭のよさ。誰にでも優しく、分け隔てなく接するその姿勢は彼のファンを増やし続けた。
魔術の実力も確かなもので、同じクラスにいることが不思議だと常々三馬鹿は思っているという。
「そうだな……俺たちがあいつと仲良くなるための始めの一歩にそれは欠かせない」
「とか言いながらトーマスは知りたいだけじゃないの?」
「ふむ……否定はしないでおこう」
尊大にゆっくりと頷きながらトーマスは肯定する。個人的にも知りたいことだ、と。
エドは糸目のままで苦笑をする。相変わらず無駄に偉そうだなぁ、と。
三人の中では一応まとめ役のマークが一つ頷いてから二人に話しかけた。
「二人の同意も得られたことで話を進めようか。で、どうする?」
「どうする、とは?」
「どうやって確かめるか、ってことだよ。まさか真正面から男ですか、って聞きに行くわけにもいかないだろ」
「ダメなのか?」
「トーマス、それはさすがに直球すぎるよ……自分に当てはめてみなよ。そんなことを聞いてきた相手と仲良くなれないって」
「とはいうものの、エドに何か名案があるのか?」
「ええと、それは……」
早くも座礁しかかる三人だった。
彼らの議題にあがる話はいつもこんな調子でとりとめがない。
ああだこうだと話は盛り上がるものの、時間が経てば自然消滅してしまうものがほとんどだった。
しかしながら今回は違った。何故なら彼ら以外の第三者が介入したからである。
「その話聞かせてもらったでござる」
妙な口調で割り込んできたのは小柄の少々肥満気味の男子生徒だった。
クラスメイトの間ではマッドと呼ばれる少年だった。
三馬鹿も馬鹿なことをしでかすからそう呼ばれているが、マッドの場合は名前の通りおかしな行動をとることからそう呼ばれている。
怪しい黒魔術のようなものを研究しているとかなんとか。休み時間になんだかよくわからない魔術書のようなものを机に広げていたりするのだ。
見た目も相まって女子からは敬遠されがちだが、意外にも博識で男子の間では重宝されている人物だった。
変な口調を気にする者もいることから男子全員というわけでもないが、少なくとも三馬鹿は気にしないグループに属していた。
「何だよマッド。俺たちは今、議題の討論に忙しいんだ」
「その通りである」
「まぁ進展は全然していないんだけどねー」
三者三様の反応を返すその様子にマッドはにやりと笑った。
なかなか珍しいことである。マッドはあまり感情を見せるタイプではなかった。
入学してしばらくが経ち同じ教室でずっと過ごしている三馬鹿でさえも、マッドのそんな表情を見たのは初めてだった。
顔を見合わせる三人にマッドは上機嫌に口を開いた。
「ミコトきゅ……んん、ごほん。ミコトくんの性別を調べるための作戦は僕がすでに立てている。
完璧な……まさしく完璧な作戦だ!」
そして今、三人の馬鹿と頭のねじが飛んだ一人とが邂逅し、事態はカオスな方向へと進んでいく。
そんなことになっているとは露知らず、今日も我らがミコトは演技を捨てた無愛想な顔で退屈そうに座っているのだった。
「ミッションその一はトイレへの浸入でござる」
「それ最初っからハードル高くない!?」
廊下の隅っこで思わず声を高々にマークは突っ込んだ。
秘密の作戦会議ということもあり、とりあえずは話だけは聞こうとこうして廊下に出たわけだが。
あまりの内容に目立つことも忘れて大声を上げてしまったのだ。
幸いあまり人気がないこともあって注目されなかったのが救いだろうか。
「落ち着くでござるよ。ミコトくんは我らと同じ男であるなら入る所も同じであろう?」
「あ、ああまぁ確かにそうなんだけど……マッドが侵入とか言うからさ」
「言葉を選ばなかったのは悪かったでござる。
まぁ要するにミコトくんがトイレに入ったら、その後をつけて真偽を確かめようってことでござる」
「それはそれで何やら背徳的な匂いがするな……」
「あ、あはは……」
エドは苦笑するだけに留めているが、確かにトーマスの言うとおりでもあると思っていた。
ミコトは自分のことを男と言っているが、見た目からはとてもそうだとは思えないというのが三馬鹿の見解である。
性別を疑っていては仲良くもなれない。だからはっきりとしよう。今回の目的はそういうものだ。
そこに悪意というものは一切なく、興味本位というわけでもない。
あくまで三人にとっては仲良くなるための第一歩だった。
こんなことを三人が思ったのも、ミコトがマリーの為に怒ったあの時からだった。
前々からミコトとは話もしていたし、たまに遊んだりもしていた三人。でもそれはどこか壁がある関係だった。
今のミコトは前とは比べるべくもなく無愛想で人付き合いも悪い。
だがそれがミコトの素であり他の人の為にあんなに怒れる奴なら、こちらから友だちになりたい。
そう三人とも思っていたのだ。
マッドの思惑はどうあれ、八方塞だったから乗ろうとしていたのだが……。
マッドの作戦に乗るべきか否か。判断はマークに委ねられていた。
(確かに手っ取り早い方法ではあるが、本当にそんなことをしていいのか。
他人にトイレを済ませている姿なんか覗き見られたら俺だったらかなり嫌だ。喧嘩になるかもしれない)
ううむ、と頭を悩ませるマークにマッドの声が鋭く響いた。
「む!ミコトくんが廊下に出てきたでござるよ!」
話をしていた内容だけに四人に緊張が走る。
まさか聞かれていたわけではないだろうが、どうしても素知らぬ顔を出来るような腹芸は四人には出来なかった。
ぴゅーぴゅーと下手な口笛を吹くマーク。これは素晴らしいな、とただの壁を見て絶賛するトーマス。
糸目を利用してたったまた寝た振りをするエド。マッドはいつもの無表情だったが、一筋の汗が顔に流れていた。
教室からは遠く離れていた位置だからすぐには気付かれないだろうが……明らかに挙動不審である。
「「「「…………」」」」
四人にとって永遠に等しい時間が流れ、そしてミコトの姿は廊下の向こうへと消えていく。
どうやらここにいたことにも気付かれていなかったようだ。
胸を撫で下ろすマーク、トーマス、エド。マッドだけはずっとミコトの行く先を注視していた。
「……チャンスでござるよ、皆の者!」
「は?ちゃ、チャンス?」
呆けた声をあげるマークに焦れたような声でマッドを急かした。
「どうやらミコトくんはトイレの方向に行ったようでござる!」
――彼らに激震が走った一瞬であった。




