EE 第五十九話 共感する者
短いです。
歌。
歌が響いている。
どこかで誰かが、優しい歌を歌っている。
旋律はどこまでも澄み切り、聴くものに安らぎを与える。
例えそれが闇からいずる黒き影であろうと、怨念に凝り固まったその身を癒し浄化していく。
それがわかっているからこそ、彼は悲しかった。
地球という世界ではどこにでもあるような教室の中で一人、ミコトの姿と瓜二つの少年は嘆き悲しむ。
あぁ、全てが手遅れになってしまった、と。
どこでボタンをかけ間違えてしまったのだろうか。
スラム街で無理に自分の力を貸し与えてしまったからだろうか。
あれのおかげでミコトが助かったのは確かだが、もしかしたら自力でなんとか出来たかもしれない。
無理に力を渡した反動で、それ以降は手助けすることすら出来なくなったのだから。
もっと慎重になるべきだったのだ。
それとも自分がミコトをあの世界から呼び出したことこそが間違っていたのだろうか……。
もしもを考えればきりがない。
しかし彼に出来ることなどないに等しいのだから、延々と考えることしか出来なかった。
「母上……」
呟きはぽつりと小さく自分でさえ聞き取れない。
無論、この歌の主にさえ届くことはないだろう。
彼女の歌が聴こえてくる理由は一つしかない。呪いはなくなっていないのだ。
どうして元凶である指輪がなくなった今でさえ呪いが消えないのか。
それは三年という時と解呪を行わず指輪を取り除いたせいでもある。
年月を経て呪いはすでにミコト自身にほとんど移っており、指輪がその呪いを統率していた。
コントロールしていた指輪をただ乱暴に引き抜けばどうなるか。
呪いが暴走したとしても不思議ではないだろう。
アリエスに向けられた尋常じゃない殺意はミコトだけのせいではなく、呪いが表面化してしまったということでもある。
その身が呪いに飲み込まれなかったのは、ミライがこうして助けていてくれているからに違いない。
悪化してしまった事態に彼はミコトを責める気にはなれなかった。
ありとあらゆる体の痛みに耐え、ルクレスが人を消耗品のように使い心の責め苦さえ毎日のように行っていた地獄の日々。
無情にも散った人の死を背負い、重みを増していく背中に押し潰されず時を待っていたというのに。
アリエスがレコンを殺したと聞かされて流れ込んできた絶望を、彼も共感していたのだから。
どうして、どうしてそんな彼を責められようか。
「主が母上の存在を知っていれば……あるいは」
それもまた彼を責めていたわけではなく、自分自身を苛む言葉だった。
指をくわえてただ見ているだけしか出来ない自分が口惜しい。
誰よりも傍にいるのに、誰よりも役に立てない苦しみ。
言葉さえ今のミコトには届かない。彼は誰にも心を開いてはいないのだから。
だが果たして、言葉が届くようになった所で母親の存在をミコトに知らせることが出来るのか?
「……無理だ。我は母上との約束を破れない。だが、しかし」
いつか彼の心の扉が開かれた時、自分のことを明かす日がくるだろう。
明かせない秘密は多い。それでも絶対に自分だけは彼の味方にならなければいけない。
例えどんな事が起ころうとも、どんな道に彼が行こうとも。




