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君が待つ家へ

9話前のお話です。

 ユーミが異世界でサガラと住むようになって数日が経ったある日のこと。


「あれ? サガラ出帰るの?」

「あぁ。仕事だ」

「えぇ!? あんたって働いてたの?」

「当たり前だろ。働かなきゃ食っていけねーだろ」


 驚くユーミを前にサガラは呆れた顔で言い放つ。


「うーん。そうなんだけど、サガラが働いているイメージが無さ過ぎて」

「お前、食わせてもらってるくせに失礼だな。おいっ」

「あはは。ごめん。頑張って来てね。おいしもの作って待ってるから、早く帰ってきてね。いってらっしゃい」

「あ、あぁ」


 ニコニコ笑顔で手を振るユーミ。

 サガラもうっかり手を出しかけるが、慌ててそれを引っ込めて、無愛想に肯き家を後にした。


………………。


「さすがサガラ。仕事が早いね」

「あんなの楽勝だろ。まったく歯ごたえのねー仕事だったな」


 仕事を終え、依頼主の元にやってきたサガラは余裕の表情で言い放つ。


「頼もしいことだ」

「報酬はいつものとこに頼む。じゃ、俺は帰るぜ」

「飲んで行くんだろ? 私も付き合うよ。ちょうど飲みたい気分だったしね」

「いや。このまま家に帰る」

「珍しい。具合でも悪いのかい?」


 サガラが仕事を終えるとほぼ毎回飲みに行くことを知っている男は、不思議そうにサガラを見る。


「別に。ただ、待っている奴がいるから」

「へぇ?」


 男は、サガラのその言葉よりその表情に驚く。

 平静を装いつつ、口元が小さく笑っている。

 今まで、サガラがこんな表情を見せたことはなかった。


「べ、別に深い意味はないぞ! ただ、待たれると落ち着かないから、それだけだからなっ」


 特に理由を聞いていないというのに、サガラは言い訳がましくそう言いながら、部屋を出て行った。


「ふむ。なかなか楽しいことになりそうだ」


 サガラがいなくなると、男は優雅に紅茶を飲みながらクスクスと笑った。


………………。


「帰ったぞ!」

「早っ。帰ってくるの早すぎ」

「って! 早く帰って来いっつたのお前だろっ」


 ユーミの反応に若干ショックなサガラ。


「でもまさか、こんな早いなんて。うーんと、大丈夫かな? もう出来たかな?」


 ユーミは、かまどに入れられていたトレーを取り出す。


「なんか甘いにおいがする」

「あのね、お菓子を作ってみたのよ。でも味見してないから味の保証は……」


 説明の途中で、サガラは出されたばかりのお菓子を口に放り込む。


「……」

「ど、どう?」


 無言で咀嚼するサガラを緊張した面持ちで見守るユーミ。


「……」


 ユーミが見守る中、もう一つを口に放り込む。

 そしてもう一つ。

 更にはもう一つ。


「ちょっと! なに本格的に食べてんのよ!! こっちがドキドキして感想を待ってるっていうのに」


 トレーをサガラから避けて、ユーミはクワッと言い放つ。


「悪くはねーよ。お前にしては上出来。褒めてやる」

「なんで、めちゃ上から目線なのよ」


 サガラの答えにユーミは頬を膨らませ口を尖らせるが、次の瞬間には嬉しそうに笑みを浮かべる。


「でも、おいしってことだよね。よかったよ」

「……まぁな」


 屈託なく笑うユーミに、サガラは何と答えていいか分からず、視線を外し肯く。


「じゃあ、一緒に食べよ。今、お茶入れてくるよ。私が来るまで待っててよね」

「はっ? え、おいっ」


 呆気にとられるサガラを置いて、ユーミはキッチンの奥へと姿を消す。


「一緒にってなんだよ。……変な奴」


 気まぐれで買い取った異世界の女。

 サガラにとって、別にいてもいなくてもどうでもいい存在。

 そのはずだった。


「本当に変な奴」


 それが変わりつつある。


 だが、そのことに気づくのはまだ先の話。






 ちなみにユーミが作ったのはクッキーです。あの後、サガラに瞬殺で平らげられちゃいます(笑)

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