隠蔽
こんな事、俺には一生無縁だと思っていた。だって俺はキチンと完璧なプランを用意して、毎回細心の注意を払いつつ事にあっている。だから俺には関係ないと思っていた。だけど現実は違ったって事だ。
あの日、俺は言葉では形容できない衝動に駆られた。
その衝動は凄まじいもので、完全に俺は獣と化してしまったのだ。抑えの効かない激情は、時には破滅をもたらす。
その日の記憶はハッキリしないが、先日人間たちが大騒ぎしていたのがきっとそうだろう。
“日本史上最悪の殺人事件”という見出しが一面を飾っていた。
死者数、三百五人。重軽傷者数二十四人。
生き残った人々は口々に譫言を言っていたらしい。“神のような悪魔が来た”と。
幽かに残る記憶と言えば、泣き叫び逃げ惑う人間を殺し回る記憶だけだ。まず俺がやったと見て間違いないだろう。
非常にまずい。まずい状況に陥ってしまった。殺したのが本当に俺だとしたら、均衡が崩れてしまいかねない。
そう言えば以前にも、似たようなことがあった。確か1900年頃の流行病も、俺が衝動に負けたせいで四千万人ほど殺してしまった。
二つの事件を比べると死者数に天と地程の差はあるが、殺人と流行病とではほぼ比例するくらいの死者数だろう。
しかもよくよく考えてみれば、今までいろいろとやってきたものだ。
開発初期に大型の肉食動物や草食動物など、さまざまな無知生物を育てていたが、それも衝動発作で絶滅させてしまった……。
こんな事ではいけないとわかってはいるのだが、何しろこの優越感と言ったら形容できない……。
もう最終手段として残っているのは、初期化。つまり、最初からやり直すことだ。
随分長い時間を掛けて育ててきたから、なんだかんだもったいない気がする。でもこのままでは均衡が崩れ去り、俺は新界から永久追放されてしまう。それだけはごめんだ。
なんとか今から淘汰プランとして、報告できないものだろうか……。事後報告じゃそれこそ罰を受けかねないか。
………。
そうだ! いい方法を思いついた。
今地球では温暖化が深刻化しているらしいし、この方法でなんとかなるだろう。
そのころ地球では。
「このままいけば、人類は破滅です!」
「どうしたと言うんだね?」
「はい、現在地球は気温が一日に一度上がっており、北極、南極の氷を溶かすどころか、水を干上がらせてしまい、三十年もすれば地球上の水分は全て干上がって……」
2010/5




