灯火
掲載日:2026/07/14
蓮と陽菜が出会ったのは、画面越しの世界だった。たまたま同じゲームを好きだと知り、夜更けまで語り合ううちに、遠くにいるはずの距離は、心より近くなっていた。
初めて会った日、二人は照れながら笑い合い、手を繋ぐまで時間はかかったが、結婚は自然だった。
ただ「この人となら」という確信があった。
結婚して数年が過ぎた頃。陽菜が突然、涙が止まらなくなった。理由のない不安と重さに飲み込まれ、布団から出られない日々。診断は「うつ病」。明るかった笑顔が影に隠れ、彼女は何度もつぶやいた。
「ごめんね……迷惑ばかりで」
夫は首を振った。
「迷惑なんかじゃない。生きてくれてるだけでいい。」
生活は苦しくなり、余裕なんて消えていった。それでも彼は、毎日そばに座り、彼女の呼吸に合わせて静かに寄り添った。朝はカーテンを少しだけ開け、夕方には短い散歩に誘った。ほんの小さな回復の種を、二人で守った。
ある日、陽菜が弱い声で言った。
「また、笑える日が来ると思う?」
蓮はやさしく手を握った。
「来るさ。今、少し笑えてる。」
その微笑みはかすかだったが、確かな春の気配だった。
どん底の中でも、二人で見つけたほんの小さな笑顔。それだけで、生きていける。幸せは大きくなくていい。ただ、隣にいるあなたと笑えること。それがすべてだった。




