表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灯台荘の微光  作者: 浮世雲のジュン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/44

第6話 「設計図に残った光」(拡張)

第6話 「設計図に残った光」(拡張)


朝の柔らかな光が、灯台荘の縁側を白く照らしていた。

https://suno.com/s/C1WRkFCTY5rvPQ6k

高橋澪は鈴木彩と並んで、灯台の外壁を布で拭いていた。

彩はまだほとんど言葉を発さないが、澪が「一緒に、少しだけ手伝いませんか」と声をかけると、静かに頷いた。


海人は少し離れたところで、梯子に上って屋根の苔を落としていた。

三人で灯台を掃除するのは、初めてのことだった。


「ここ、埃が積もってる……」

澪が窓枠を拭きながら呟くと、彩が小さな声で返した。

「……私、会社でずっと頑張りすぎて……倒れて。

誰も『休んでいい』って言ってくれなくて。」


澪は手を止め、彩の震える指に視線を落とした。

「ここでは……無理しなくていいんです。

海人さんが、そう言ってくれます。」


そのとき、海人が梯子を下りてきた。

彼は黙って機械室に入り、古い革の筒状のケースを持ち出して、縁側に広げた。


「これ……俺が昔、設計したものだ。」


澪と彩がそっと覗き込む。

そこには、何枚もの住宅設計図が丁寧に描かれていた。

柔らかい線で描かれたリビング、窓の配置計算、夜の光のシミュレーション。

一番上の図面には、手書きのメモが残っていた。


「夜でも、そっと『ここにいてもいい』と思える光を」


澪の胸が、ぎゅっと締め付けられた。


海人は遠い目で図面を見つめながら、静かに語り始めた。


「遥が、いつも言っていた。

『あなたは光を設計する人。私はその光の中で暮らす人。それでいいのよ』

……無理に明るくしなくていい。

ただ、誰かが疲れて帰ってきたときに、

自然と息を吐ける場所があれば、それで十分だって。」


彼の指が、図面の隅に書かれたもう一つの言葉をなぞった。


「弱い光でも、誰かの夜を少し明るくできる」


彩が息を飲んだ。

澪はそっと彩の手を握った。

二人の掌が、ほんの少し温かくなった。


午後、海人は三人分の味噌汁を作った。

きのこを多めに入れ、遥の味を思い浮かべながら。

食卓で、彩が初めて自分から口を開いた。


「……私、ずっと『頑張らなきゃ』って思って、

誰にも頼れなくて。

ここに来て、初めて……ただ座っていてもいいんだって、思えました。」


海人は椀を静かに傾け、

「遥も、そうだった。

『言葉にしなくても、伝わる光がある』って、笑っていた。」


澪は胸の奥で、遥さんの存在が灯台の光のように感じられた。

押しつけがましくなく、ただそっと寄り添う——

海人さんの全ての優しさは、遥さんの言葉から生まれていた。


掃除の後、三人は灯台の頂上まで上がった。

フレネルレンズがゆっくり回転する中、

海人が珍しく、少しだけ口元を緩めた。


「この光は、明治の頃から変わらない。

遥が好きだったのも、この回転の静かさだ。

……お前たちも、潮が運んできた。

ここにいてもいい。」


彩の目から、涙が一筋落ちた。

澪は彩の肩にそっと手を置いた。

「私も……そう思いました。」


夕方、機械室では Ólafur Arnalds - 「Particles」 が低く流れていた。

ピアノの粒のような音が、三人の静かな時間を優しく包む。


灯台の回転光が、ゆっくりと海を照らし続ける。

設計図に残った遥の言葉が、

今、この灯台荘のすべての光に息づいている。


(第6話 完)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ