表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
灯台荘の微光  作者: 浮世雲のジュン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

16/44

第16話 「春の潮騒と、新たな影」


今日の灯台荘より

**「春が来ても、傷は消えない。

それでも朝を迎え、光を分け合う。

それが、人として生きる、静かな春。」


第16話 「春の潮騒と、新たな影」


春の訪れを告げる柔らかな風が、灯台の周囲を優しく撫でていた。

https://suno.com/s/GPaSqk6iABkTGzt6


朝の七時。灯台荘の台所は、十人分の椀でいっぱいになっていた。

冬を越えた九人に加え、新たな漂着者・二十四歳の青年・渡辺わたなべ れんが、静かに席についていた。海人が作る出汁の効いた味噌汁に、彩の春野菜の卵焼き、遥香が摘んだ山菜の浅漬け。

蓮はまだほとんど箸を動かさず、窓の外の桜色の海を見つめていた。「…………ここ、暖かいですね。」

蓮の第一声は、それだけだった。澪が微笑み、いつもの言葉をそっと重ねた。

「ここにいてもいいんですよ。」食後、海人は蓮を灯台の機械室へ連れて行った。

窓から差し込む春の光の中で、Ólafur Arnaldsの「Saman」が低く流れていた。「この光は、季節が変わっても回り続ける。

嵐の夜も、桜の朝も。」蓮が震える声で語り始めた。

「僕は……会社で、部下をいじめていた。

上司に『強いリーダーになれ』と言われて、弱い者を突き放した。

ある日、部下が辞めて……それから、僕自身が壊れた。

自分が一番弱かったことに、気づいてしまった。」海人は静かに頷いた。

「人は、傷つける側にも、傷つく側にもなる。

どちらも、生きている証だ。」午後、十人は岩場へ降りた。

春の潮が優しく寄せ、桜の花びらが波間に舞っていた。

耕平が息子の近況を、俊介が漁師仲間に教えた小さな喜びを、遥香が新作の絵を皆に見せた。彩が蓮の隣に座り、

「私も、笑うのが怖かった。

でもここで、傷を隠さずにいられるようになりました。」蓮の目から、静かに涙が落ちた。

「僕……もう、人を傷つけたくない。

ただ、誰かのそばに、静かにいられたら。」夕暮れ、澪が皆を集めて小さなノートを開いた。

「ここに来た人たちの言葉を、ずっと書き留めています。

いつか、誰かの春になるように。」夜。

機械室ではMax Richterの「On the Nature of Daylight」が、春の夜風に溶けていた。 海人は皆の前で、珍しく穏やかな声で言った。

「この灯台荘は、季節とともに変わっていく。

人が増え、光が分かたれていく。

人として生きるって、きっとこういうことだ。」十の杯に温かい春のハーブティーが注がれた。

言葉は少なく、でも心は確かに重なり合っていた。深夜、海人は一人、最上部に上がった。

春の星空の下、回転する灯台の光が白い帯を描く。(遥……春が来た。

お前が好きだった季節だ。

新しい影がまた、ここで光を見つけ始めている。

俺は、これからも回し続けるよ。

ここにきてくれる誰かに、『ここにいてもいい』と、静かに伝え続ける。)遠い海上で、数隻の船が灯台の光を捉え、春の潮に乗りながらゆっくりと進んでいた。

灯台荘の窓から、十の小さな灯りが、夜の海に優しく映っていた。(第16話 完)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ