サファイアー父が遺したモノー
鬱になり、大学を休学している私に一通の手紙が届いた。
差出人は、私が高校三年の頃に亡くなった父と知り合いの美術館の館長さんからだった。
内容は、私に見せたいものがあるから、九月十日夜九時に美術館に来て欲しいというものだった。
何もやる気が出ない、興味が持てない私、だけどその指定した日は私の誕生日だった。
(引きこもって何もやることも無いし、行ってみようかな)
私は久しぶりに外出することにした。
「待っていたよ、舞さん。さぁ付いておいで――」
館長さんに出迎えられた私は、彼の後を付いて行った。
「着いたよ」
関係者以外立ち入り禁止の扉から入って連れてこられた場所は、ぼんやりとした青色の灯りに包まれた薄暗い小さな展示室だった。目の前にはよく見えないけれど何かの絵画、そしてその前には椅子があった。
「ちょっとそこの電気を点けるから、前にある椅子に座って」
私は言われるまま椅子に座った。
やがて目の前のモノに灯りが点いた。
「これは・・・・・・」
それは一枚の大きな絵画だった。下方に草が生い茂り、その上を沢山のサメが泳いでいる。
まるで大きな水槽のような絵だ。だけど一番気になったのは中心に描かれた円の中に在る地球、そしてその中で眠る人物は――。
「私!?」
「そう、これは君だよ。君のお父さんが死ぬ間際に完成させた遺作だ。君の二十歳の誕生日に見せてやってくれと頼まれたんだ」
父には構って貰った記憶は余り無かった。いつもキャンバスとにらめっこしているような人だったから。だけど父の絵を見ていると優しい気持ちになった事、宝石の話をよくしてくれた事、そして私が辛い時は自身のアトリエに呼んで絵を見せてくれたり、スケッチブックにちょっとした絵を描いて持たせてくれたりしてくれた事はよく覚えていた。
「その絵のタイトルは、『Send sapphire to my princess』」
「サファイア・・・・・・」
私はそのタイトルを聞いた時、目から温かなモノが溢れて止まらなくなった。
サファイアは九月の誕生石。そして宝石言葉は、『徳望』、『真実』、『誠実』、それに『慈愛』、『一途な・・・・・・愛』。
「お父さん、お父さん・・・・・・うう・・・・・・」
多くを語らなかった父の本心に触れて涙が止まらなかった。ただ・・・・・・ただ・・・・・・。
――ずっとお父さんに守られてたんだね、私――。
この想いで頭が一杯だった。
「ありがとうございました」
「また遊びにおいで」
「はい! それでは」
私は近い内に復学届を提出し、大学に通うつもりだ。今日、父から逆境にも負けない翼を貰ったから――。




