静けさが、崩れ始める
光塔第七ーーSilent Heart。
結晶の壁面が、わずかに低い鼓動を打った。
地鳴り。
光脈が悲鳴を上げたように波打つ。
研究所全域の照明が、一瞬だけ白に焼け、次に闇に落ちた。
「……停電?」
誰かの震えた声が、沈黙をかき乱す。
違う。
Coreはーー生きている。
床下の光脈が、血管のように黒へ変色していく。
金色だった脈動が、墨を流し込んだみたいに冷たい闇に沈む。
その変色が始まった瞬間、
都市の地盤そのものが、低く軋んだ。
ーー揺れる……?
研究塔の外。
超巨大都市ルミナスシティが、ゆっくりと沈んでいく。
建物ではない。
大地が沈む。
「噓……嘘でしょ……?」
窓にへばりついた研究員が震える。
沈降速度は緩やか。
だが止まらない。
沈黙が都市を飲み込む。
音が、ひとつずつ死んでいく。
・通信音
・車輪音
・飛行機音
・ホログラム音
・人のざわめき
全部Coreの沈む拍動に塗りつぶされていった。
まるで都市そのものが、巨大な呼吸を忘れたみたいに。
「主任!沈降限界突破!」
「都市インフラ死滅、光脈リンク全断!」
「再起動が効かない!命令拒否!命令拒否!」
研究塔の奥で、
エルディオン・アークライトはただ一点を見つめていた。
ーー光脈が“裏返っている“。
それは理論上、ありえない現象だった。
光脈は光そのもの。
闇に染まるなんて、ありえない。
フィオーラは腹を抱えながら叫ぶ。
「エルディオン!!Coreはもう、人の言葉を聞かない!!」
エルディオンは振り返らない。
正面の結晶に手を伸ばし、呟いた。
「……沈黙が、始まった。」
都市外縁部。
避難誘導、混乱、叫び。
そしてその上から,
ゆっくりと、光塔が崩れ始めた。
ーーまだ、誰もそれを“終わり“だとは呼ばなかった。




