色のない街と、色のある時計
――パキッ………
足元へ視線をやる。
散乱したガラスだらけだった。
視線を戻し、そばの建物へ移すと、
窓ガラスが割れ、コンクリートはひびが走り、
今にも崩れそうに見える。
胸の奥に、不安な気持ちが浮いた。
(この前の揺れ……研究塔からじゃわからなかったが――)
「……結構酷い有様だな。」
父も、母も、家に戻る日が少なく、
日々忙しなく動いている。
小さい弟は、ノルディア国へ移動した。
街を歩いてみる。
残された大人たちの不安な声。自国への不満。
指揮を執るノルディアへの罵倒。
全部が混在していて、耳が痛む。
「セドリック様。
B地区の視察を終えました。
建物被害は、軽度ですが……人心が不安定です。」
「……そうか。」
続いて別方向からも一人、走り近づいてきた。
少し潮風の匂いが、漂う。
「こちら、港からの報告です。
子供たちは第三便まで予定通り出航しました。」
「……子供たちの取り残しは?」
「今のところ、ありません。」
「わかった。」
取り残しは、無し。
その言葉に安堵した。
同時に頭によぎるは、弟リグノの顔だった。
連絡は受け取った。
無事な事も知る。
だが、数日前までは一緒に過ごしていた事実が、
胸を重くした。
一つ、息を吐く。
「手の足りない所へ向かい、援助しろ。」
彼は状況を見て、指示をした。
自身は止まらず、また街を歩く。
街は、ひどく、静かだった。
生活が、止まっている。
子供の声がしない。
響くのは瓦礫、ガラスを処理する高い音。
大人たちの会話も、ほとんどなく、黙々と手を動かしている。
一つ、視線が止まる。
近づいて、手を差し出してみる。
「……手伝います。そちらの端、持って。」
倒れた看板に手をかけ、言った。
その人は、無言で指示に従ってくれた。
だが、礼はなかった。
代わりに、頭の上から足元まで一瞥し、
少し睨まれたように感じた。
先代たちが築いてきた、あの街が。
一気に冷えていっている。
それを肌で感じてしまった。
音が鳴る。正午を知らせる、街の音。
ふと、腕につけている時計に視線を移す。
針がピタリと重なっている。
無情にもそれは、温度のある色を反射させていた。
光を受けて揺れるその色が、
なぜか、幼い弟の瞳を思い出させた。
セドリックは、これ以上、時計には触れなかった。




