生まれる前には、あまりに静かな夜
――沈黙は、終わりではない。
光が生まれる前の、もっと静かな呼吸。
先程まで空は痛々しい赤で染まり、
音もノイズがかって会話もままならない状態だったのに、
今は何もかも静かで。
凍てついた鐘の音が、遠くでひとつだけ響いている。
雪に包まれた修道院の庭。
少年はその音を聞きながら、白い吐息と一粒の涙を落とした。
その名を呼ぶ声は、もう届かない。
母は祈りの中で“光”と共に消えた。
のこされたのは、祈りの残響と、胸の奥に焼きついた温もり。
――あの人の声が消えた日、世界は沈黙を覚えた。
少年は空を見上げた。
そこにあるはずの“光”が、雪に溶けていく。
手のひらに落ちた白い欠片が、
まるで最後の言葉のように震えていた。
「信じなさい。沈黙は、あなたを導くから。」
雪解けの音が、静かに鼓動を刻む。
少年は歩き出す。
――沈む光の中へ。
そして、世界は沈黙の中でひとつの“律”を思い出す。
はじまりの理――三柱の神々が紡いだ光と沈黙の神話を。
――光と沈黙の律。
はじめに、沈黙があった。
沈黙は空を生み、空は光を孕んだ。
光より生まれしは、三柱の神。
ひとつは、陽を掲げる者――ルクス。
彼女は命を与え、日を照らし、秩序を刻んだ。
ひとつは、夜を抱く者――ノクティス。
彼は夢を紡ぎ、影を癒し、静寂に心を還した。
ひとつは、星を繋ぐ者――ルーミア。
彼女は記憶を編み、空を渡る声を導いた。
三柱はやがて互いを映し、
光と影の均衡をもって、世界を形づくった。
そして人は、その名を胸に刻み、
それぞれの神を讃えて大陸を築いた。
けれど、人はその均衡を忘れ、
神々の声を己の声と思い違えた。
沈黙は、再び揺らぎを覚える。
そして光は沈み、
世界はもう一度、呼吸を止めた。




