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9.D組の運動会(1995夏の日)(前)

『まあ、これも何かの縁だ。』


『今日から、オレたちは2年D組だ。・・お前らはD組の仲間同士仲良くする様に・・』


『何かあったら、オレの処に相談に来い・・職員室のオレの席分るよな・・・』


『・・・ナニ、分らない?・・・チッ仕方ねぇな・・後で良いから、分らない奴は職員室に見に来い』


『いっぺんに来るなよ、恥ずかしいからよ・・他の先生が、驚いちまうしな』


『・・・とは言いながら、実は、オレも未だ新しい職員室に慣れていねぇ』


『今日も、間違って、去年までいた3年生の2階の職員室に行っちまってな・・グフフㇷ』


丸井先生は、そう言いながら教卓に座ったまま、座っている生徒たちの顔を確認する様に、教室を見渡した。


良太も、その様子を野呂田の机の横で立ちながら見ていた。


教室の一番窓際の野呂田の列の方を見終わった後、その視線は直ぐには戻らず、良太と視線が合ったと思うと其処で止まった。


金縁メガネの下から、お世辞にも大きいとは言えない、ジロッとしたヤクザの親分の様な目でただジ~ッと良太の表情を観察している様だった。


(エッ、先生オレの事が、・・・・が見えてるのか?、怒ってる??)


良太は、自分の顔をジッと見つめる丸井に、自分の事が見えてるのかと問う様に、自分の右手の指で自分を指そうとした。


指を自分の顔に指そうとした時、丸井の口が開いた。


『・・・・・野末(のづえ)、どうした?オメェ、()()、もとの暗い顔に戻ってるじゃねぇか』


『何か、あったのか?・・・何時もオレが言ってんだろ、チイセェ事、気にせず、堂々とお天道様の下自分の道を歩いて行けって!どうした?言えよ、何があった?』


『丸井センセイ、オレの事?見えてるのか・・・』


良太がそう言葉を出した時である。眩しい光が、バッと広がり、突然、不意打ちを喰らった良太の目は眩んでしまった。


良太が、激しい目への刺激に耐えられず、反射的に腕で目を守る。


数秒の後、恐る恐る、ウデを下げ、前方をみると、教室の様子が変わっていた。


其処には、教壇の横に座っていた丸井先生はおらず、半そでのYシャツを着た、16歳の自分が立っていた。


それを見る他のクラスメート達。皆、夏服であった。教室の席は、満席ではなく、所々に空席があった。


『運動会に向けて、クラスの団結を示すモノを準備したいのですが、何か良い案はありますか?』


16歳の良太が、緊張しながらも、委員長として学級会を進行している・・が・・。


マンガ雑誌を見る者、寝ているモノ、PHSのショートメールをを見ている等・・・良太の問いかけを、ほとんどの生徒が真面目には聞いていなかった。


冷房も無い教室で、暑さに負けているのか、教室にはダラダラとした雰囲気も漂っていた。


『・・・・今更小学生でもあるまいし、真面目に運動会?誰も、居ないわよ』


『ドウセェ、丸井からの提案でしょ!あ~あ。いかにもアイツが好きそうな』


良太の問いかけに対し、最初に反応したのが石井君であった。


『そうですが・・・・エェッと、とにかく、みんな考えて下さい』


(そう言えば、こんな事も・・・・あったなあ)


新たに良太の視界に入って来た情景は、丸井が良太に最初に与えた任務(ミッション)だった。


『野末、クラスの皆と、運動会に向けて何か考えろ、思い出に残る運動会にする為にどうすれば良いのか』


『分ったな!オレは会議があるから参加できねぇけど、お前らだけで考えろ、いいな、頼んだぞ委員長、石井と旨く皆をまとめてくれ』


(先生は、あの時簡単な事みたいにそう頼んできたけど、オレは・・・・皆をまとめる事に、まったく自信が無かったんだ)


良太は、直ぐに丸井を探しに行く事もできたが、先ず目の前のあの日の再現を見届ける事にした。

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