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6.マンモス校の普通科(高橋君の受難)

北里商科大学付属高校2年D組は、普通科の男子クラスである。


良太は、自分の目の前に出て来た高校生活の風景をみながら、己の古い記憶を手繰り寄せようと努力した。


地元の人たちもそうだが、卒業生も含め、その長い名前をいちいち呼ぶのが面倒で、ほとんどの人が省略して商附(しょうふ)と呼んでいた。


先述したとおり、有り難くない親不孝高校という蔑称もあったが、公式な呼び名は商附(しょうふ)である。


商附(しょうふ)は、毎年約1000人の新入生が入学し、全校生徒の数は3千人に近かった。


県内ダントツ1位のマンモス校であった。


その大所帯の高校には、入学試験の結果をもとに、下記のクラスに分類されていた。


有名大学の進学を目指す特進クラス 100名。共学


私立、国立大学を目指す文理クラス 100名。共学


スポーツ特待生を在籍する体育科  100名。男子のみ


自動車整備士養成クラス       50名 男子のみ


普通科              650名 男子クラス、女子クラスに別れている


普通科と文理クラスでは、年に2度統一模試が行われ、その結果に基づき若干名の生徒の入れ替わりがあった。


普通科の生徒でも、約3割の生徒が高校卒業後、進学(専門学校を含む)を選ぶのだが、そのほとんどが運動部での実績をかわれ、スポーツ推薦で系列である北里商科大学や他の大学へ入学する者が少し、あと大半の生徒が調理師、介護士理髪師などの職業専門学校へ進学するほとんどであった。


つまり、普通科クラスの生徒の大半は、高校卒業後就職するのが当たり前だったのである。


進学を考えていない生徒の多くは、最後の学生生活を謳歌するようによく遊ぶ。


出席率も、良くない。なぜなら遊ぶには金がかかる為、バイトに明け暮れるのである。


身だしなみについては、それほど、厳しくは無かった


金髪、茶髪などは暗黙の領域、反り込みはグレーゾーンで、先生によっては見逃す人も居た。


しかし、気合の入った強者(せんせい)も多かった。


流石に反り込みを入れ、眉毛を剃ってきたクラスメートは、見せしめの様に、ボクシング部の顧問の先生に、その場で一本背負いされ、倒れた後、腹に馬乗りされ、顔にビンタを雨あられの様に受けていた。


『高橋ぃ、何だ、その目は?殴られて、気に食わねぇのか?』と、バシィ。


『オレらはなぁ、お前らの親たちに代わって、指導してやってるんだ』とバシィ。


『何だ、その目は?』、バシィ。


『その目は、何だって聞いてるんだよ』、バシィである。


高橋君が反抗的な目を止めない限り、細谷先生は10回以上ビンタし続けた。


(・・・この先生、怖ええ)


そのやりとり、迫力を良太は46歳になった今でも忘れていない。


ガヤガヤしていた教室は、一瞬で整然となり、高橋君の取り巻きの生徒達も恐怖のあまり、誰も細谷先生に手を出す事は出来なかった。


中学まで、体罰という言葉はドラマやニュースでは知っていたが、直に見るのはそれが初めてだった。


高橋君、高橋マサルという生徒は1年でも良太の同級生だった。


185㎝。100㎏の巨体だったが、実は高校デビュー。


入学初日、彼の中学時代の友だちと思われる生徒に、『マサル、何だ、その頭??』と驚かれていた。


『高校生になったから、リーゼントにしたんだ、キマッテルべぇ?』


『ゼンゼン・・・』


『・・・・』


良太は、偶然その会話を聞いていたので、高橋君が高校デビューである事を知っていたのである。


高橋君は、身体もデカいので圧がスゴイのだが、良太に対しては、呼ぶときに君づけで呼んでくれていたので、良太も、心の中で、高橋君と呼んでいた。


高橋君は、それから他のクラスの不良グループとつるむようになっていて、その影響もあってか、どんどん、外見が変わっていったので、良太も心の中で心配していたのである。


細谷先生の洗礼を受けた後、彼は一週間学校を休み、眉毛が生えて来る迄学校に来なかった。


後日談になるが、細谷先生と高橋君の関係は改善され、細谷先生が授業に来るたびに、高橋君に声をかけていた。


『マサル、元気か』


『オウ、前より男前になったな!』


『先生、勘弁してくださいよ』


この会話が、2-Dの現代社会の授業の始まりの定例合図になるとは、あの時は思っていなかった。


安室奈美恵の人気が頂点を極め、色黒の女子高生ばかりだった時代、生徒も先生も、今考えると緩かった時代であった。

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