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親不孝高校 3年D組のデアテーチャー【Forever Yong (追憶の彼方)】  作者: 野松 彦秋


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30/30

30.恩師の居なくなった世界で

『FOREVER~YONG♬・・・FOREVER~♬』


良太が目を開けると、見慣れぬ天井が目についた。


大きいベットの上で、携帯電話だけが意識を失わず、依頼された仕事を愚直に繰り返していた。


良太は、慌てて彼の仕事を止めさせるべく、自分の目が届く位置にたぐり寄せる。


電池残量が5%で、画面は節電モードの明るさになっていたが、4:25という時刻は見て直ぐにわかた。


(・・・いつの間にか、寝てしまったんだな)


良太は、直ぐにベッドから起き上がり、旅行カバンの中から携帯の電池の充電用の一式を探し出し、セットした。


そして、部屋のバスルームにある洗面所に向かう。


大きな鏡の高級感あるスペースに入り、その鏡の中には寝ぐせで髪が飛び跳ねている中年の男が居る。


部屋のアメニティ品である髭剃り用のカミソリを開け、髭が伸びた場所に刃を沿わせる。


そして、髭を剃りながら、昨日観た夢の内容を思い出し、その夢を見させた自分の心理を自分なりに分析していたが、その答えは考えなくても良太には解っていた。


(恩師の丸井先生が亡くなった事、その彼に恩返しが出来なかった罪悪感、・・・沢山お世話になった人達が居て、・・しかし、今、鏡に映る自分の姿は家族を失った独りの中年である。)


(あの出会いは、一体何だったんだろうか・・)


(背伸びをして、生徒会長に立候補して大学に入り、働きながら大学に通い、背伸びをして留学までして・・・)


(15年間も、海外で働いて・・・、・・・其処迄してこの様か・・)


(結局、今オレが生きている目的は、両親の人生を見届けたいという事だけだ)


『オレの人生って、何だったのかな・・・先生?』


良太は、今は亡き恩師にそう問いかけたが、当然その問いには誰も答えてくれず、寂しさが込み上げてくる。


高校時代に自分を導き、励ましてくれた恩師がもう同じ世界には居ないという事実と、何も恩返しが出来なかった現実を受け止める事しか出来なかった。


自分の髭の剃り残しを、確認しながら良太は深いため息をした。


その日故郷に深い後悔の溜息を残し、46歳の良太は東京へ戻ったのである。


しかし、偶然は重なるモノである。


故郷から良太が家に戻ると、良太の母が忙しくしていた。


『アッ!お帰り、あのバカどうしてた?』


『元気にしてたよ・・・』


『・・・ムカつくわね、幸せそうで、・・アンタも、そんなにお父さん好きだったら・・』


『あっちで、一緒に住めばいいのに、私は構わないわよ、一人で楽しく生きていくから・・』


良太の母は、離婚した元夫の父の様子を聞くと、軽く良太に嫌みを言った。


『・・・そんな嫌みわないでよ、・・・後ね、高校の時お世話になった丸井先生が亡くなったんだって・・』


『あら、そうなの残念ね、あの先生、凄い肥ってたもんね。やっぱり太り過ぎはダメヨ、私も気をつけなければね・・』


『・・・アッ、そうそう、丁度ね・・・』


そう言うと、母は自分の部屋に戻り、少し大きな頑丈な紙でできた菓子箱を持って来た。


『良太が居ない間、私、終活のつもりで断捨離(だんしゃり)(整理整頓し、余分なものを捨てる事)したのよ、そしたら良太の写真が一杯出て来て・・』


『私じゃ、分からないから、アンタも、整理して、残す写真と捨てる写真を決めたら?』


『母さん、オレ、今旅行から帰って来たばっかりだぜ・・後にしてくれよ・・』


『別に直ぐやれって言って無いわよ・・・明日でも、明後日でも落ち着いたら・・』


『ハイ、もう、アンタに渡したからね・・・』


良太は仕方なく、手渡された箱を自分の部屋の机に置く。


置いてしまったので、良太は仕方なく中身を確認しようと目を通すと、1枚だけひと際大きな写真がある事に気がついた。


その写真は、高校を卒業した後、一度だけ行った同窓会の記念写真であった。


ホテルの一室で、横10人ぐらいで並び、縦3列で取った集合写真である。


中心には、良太とピンク色のセーターを着た石井君が座っていた。


確か写真屋に就職した小沢君が取ってくれた写真だった。


石井君は笑顔で、彼の目は、キラキラ光っていた。


そして、その横には、背筋を伸ばし、キリっとした威厳のある顔の丸井先生が座っていた。


先生の目を見て、良太の耳に受験の日に言われた先生の声が聞こえてくるような気がした。


『未だ終わってねぇべさ、ヤレ、全力でやるだけだべ』


『野末ぇ~!オメェのこれからの人生でも、いっぱいあるぜ、こういう時が』


『その度に、オメェは、終わってもねぇ時から、白旗あげんのかよ』


『オメェは、そういう奴じゃねぇ、ねぇべさ!』


『ヤレ、とにかく、最後まで全力でヤレ、落ちてもいい、全力でやって帰って来い』


『結果は、その次だ・・。』


親不不孝高校と呼ばれた良太の母校の、3年D組の丸井先生は、もうこの世界を去ってしまった。


しかし、親愛なる恩師の言葉とその存在は未だ良太の心に残っている。


この世界を去るその日まで、良太は絶対に忘れないだろう。

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