29.込み上げて来た怒り
佐川先生は、良太の言葉を聞いた後、もし付き人をやると決めたら此処に直接電話してくれと言って、電話番号が書かれた紙を良太へ渡した。
もし、やらないという事であれば、佐川先生から先方に断りの電話を入れるからと、1週間以内にもう一度来てくれと言われた。
紙には●× ▽▲事務所、03 ●●●● ●●●●とだけ書かれていた。
中央職員室を出た良太は、茫然とする半面、何処か込み上げてくるような感情があった。
それは、間違いなく怒りだった。
今迄、穏やかな時間を過ごさせておいて、急に、自分に数々の決断を迫ってくる現実に対する怒りだった。
(’チキショウ・・人の気持ちも知らないで、未だ進学する事も決めてないのに、何で急にこうなるんだよ、オレにどうしろって言ってんだよ)
良太は、正直その怒りに身を任せ叫びたい気持ちだった・・・が、そんな状態でも、仕方なく丸井先生の待つ、普通科の職員室に佐川先生と会って話を聞いた事を伝えに行った。
『先生、言われた通り、中央職員室に行って、佐川先生から話を聞いて来ました・・』
『・・・そうか、ンでどうする、野末??』
『・・・先生、今日、急に言われて、直ぐに結論なんか出せません・・』
『出せるワケ、無いじゃないですか・・・。大学に行くのだって、未だ決まってなんかないんですから・・』
『・・・オメエ、何かあったのか?、野末、チョット教室行って、話すか?いや話すぞ。』
丸井先生は、そう言って良太を連れて3ーDの教室へ向かった。
教室に入り、適当な机を向かい合わせ、丸井先生は良太を片方の席に座らせた後、自分も座った。
五厘の坊主頭で、鋭い目で良太の顔を見る丸井先生の顔は、良太達生徒以外の人が見たら正直教師というよりもヤクザの様に見えたと思う。
『野末、オメェ、どうした、何か問題抱えてるのか?』
『・・・・・』
丸井先生の問いに、良太は言いたい事は山ほどあったが、何も言えなかった。
人に簡単に言える様な事であれば、悩む事も無いからだ。
そんな良太の気持ちを知ってか知らずか、業を煮やした丸井先生が語り出す。
『オメエが、悩んでる事、オレが言ってやろうか・・・・』
『・・・・・』
『・・・・・・・・・』
(何を言い出すんだ、この人は・・・)
『・・・あの日、土下座をしていた俺に、警察官の一人が溢したんだ』
『どうしても腑に落ちない事があるってな、あの子達は、検問を突破したのか・・』
『普通に、大人しく捕まっていれば、こんなにも罪を重ねる事は無かったのにって』
『んでな、その後、もう一人の警官が、こうも言った・・あの日、検問突破する前に、アイツらの車から一人降りた奴がいるかもしれないって・・・もしかして、彼らはその子を庇う為に・・・』
『丸井先生、3人と個別に話す時に、その事も聞いてくれとも、頼まれた』
『・・・・今の、オメェの顔見て、分ったよ・・・』
『あいつ等も言わなかったよ、3人だけだったって言い張ってな』
『石井なんかは、佐藤も、下柳も被害者で、自分一人の責任だってよ、泣きながらオレに謝ってきたぜ』
『・・・本当バカケでな、どうしようも無い奴らだよ、・・・けどよ、オレは、アイツらが、オメェを心配して、助けてやった事であれば、絶対アイツらを、守ってやりてぇって思ったよ・・』
『・・・それが、オレの使命だからな・・』
『・・・んだから、オレが言いたい事は、とにかく言い訳するな、お前の道はお前が決めろ・・』
『オメエの進路を決めるのは、オマエだ。オレじゃねぇ。石井達の件と、お前の進路は別問題だ』
『アイツ等のせいにするなよ・・』
『どんな道を進んでも、オマエに後悔が無ければ、オレは満足だ』
『アイツらの事は、オレに任せて、お前は、親御さんと自分の進路の事をしっかり話せ!』
丸井先生は、そう言うと、教卓の上にあったプリントを見つけ、丸めて棒を作り、良太の頭を軽く叩き教室を出て行ってしまった。
その日、良太は付き人になる事を前提に、自分の両親に大学に進みたい旨を話した。
そして、その週には大学時代お世話になる●×先生の家に、挨拶の連絡を入れた。
無期停学になっていた下柳君と佐藤君は、卒業式の前日に停学が明け、卒業式には出れた。
主犯格とされていた石井君は、卒業式には出れなかったが、その年に卒業する事が出来た。
しかしその事を良太が知ったのは、良太が20になった時の高校の同窓会であった。




