25.GTM(グレート テーチャー マルイ)と石井君(転)
『じゃあ、長崎屋に向かうわよ・・・長崎屋に着いたら、又教えて頂戴・・。』
石井君は、手慣れた様に方向指示器を出して右折をしながらそう言った
『あ・・有難う』
洋太は礼を言い、同い年で同じクラスメートが既に免許をもっている事実、心の中でカッコいいなあと思ってしまった。
『そいでさ、委員長、どうして歩いて帰ってたの??サイフ?バスの定期でも忘れたの?』
佐藤君が、良太が寒い雪道を歩いて帰っていた理由を聞いて来た。
『・・・実は、今日受験した大学から、合否判定が来て・・色々と考えたくて・・・』
『エッ??受かったの??』
『‥‥一応ね、運よく・・』
助手席に座っていた下柳君が驚いた様に聞いてきたので、洋太は小さな声で答えた。
『良かったじゃん、スゲェ・・スゲェよね、石井君?』
『何言ってんの、生意気よ、酸っぱい梅干しの様な匂いがするクセに、』
『じゃあさ、卒業したら東京の方へ行くんだ!委員長は・・・』
『未だ、分からない、親と相談するつもり・・・』
『何よ、もう決まってるんでしょ、勿体ぶった言い方してぇ・・・』
『まあ、良かったじゃないの、アンタなんか、未だ働けないわ・・大学に入ったらバイトでもして社会勉強しなさいよ・・・フン、一応、おめでとうって言ってあげるわ。』
『良かったじゃないの』
運転してる為、後ろを振り返れない石井君は、相変わらずの表現で良太の合格を喜んでくれた。
『ところで、今日、3人とも、学校に居なかったけど、何してたの』
良太は、自分の話題を別にしたくて、他の話題にかえようと3人に聞く。
『サボリよ、サボり、丸井、何か言ってた??4月からこのメンバーじゃ、なかなか集まれなくなるからね・・』
石井君が先ずそう言った。
『佐藤と俺は、街(市内、駅周辺の意)で買い物していたらね・・・石井君とバッタリ会っちゃて・・』
そんな会話をしている時、4人の乗っている車が市内のメイン道路に入った。
暫く行くと、其処で渋滞にはまった。
『でもさ、、東京に行けるのって良いよね・・』
『アッ、前に警察がいるぞ・・・・何か、検問してるみたいだ』
『飲酒運転の取り締まりかな??』
良太もそれを聞いて、自分の傍にある窓ガラスの外を見た。
未だ少し乗っている車とはく距離はあったが、遠くに赤ランプが点灯している警察のパトカーや白バイが数台止まっていた
『何だろう??事故かな・・』
佐藤君と、下柳君は自分の予想を口に出し、興味津々になっていた。
『何だろうね・・』
二人に相槌を打つように、良太もそう呟いた・・・、が石井君は一人だけ様子が違った。
『ヤバいわね・・・・。』
低く、そう呟いた。
『・・・石井君、何、どうしたの??』
『ヤバいって、何が・・・』
『・・・・・』
二人の問いに、石井君は直ぐに答えず、何かを考える様に握っていたハンドルから片手を放し、自分の髪を触った。
『・・・委員長、アンタ、此処でこの車降りなさい・・』
『降りたら、普通に歩いて、来た道を戻る方向に行って・・・』
『石井君、どうしたの、急に』
下柳君が、慌てた口調で言う。
『・・・実はね、アタシ未だ免許持ってないの・・・』
『エッ・・・何言ってんの??』
『それでね、・・・この車も、アタシのモノじゃないのよ・・・』
『歩いていたら、鍵がかかったままの車があってね・・・借りてきちゃったの・・・無断でね』
『・・・・・』
『????』
3人が一斉に事の重大さが分かり、石井君の方を見つめた。
あまりの衝撃に、言葉が出ず一瞬その場が凍ったのを良太は覚えている。
『じゃあ、オレも逃げるよ!』と佐藤君。
『オレも!』と下柳君。
『馬鹿!、3人で逃げたら、直ぐに奴らに気づかれるわよ・・』
『・・・』
良太は何も言えず、突然自分が巻き込まれた事態の大きさに唯々驚いていた。
『逃げるのは、野末よ、大学合格したばかりの奴、取り消しになんか出来ないでしょ・・』
『イヤだ、俺だって就職決まってるんだよ』
佐藤君が自分の意志の正当性を訴える。
『・・・・分かったわ、まあそうね、だったら一人づつ、順番。最初は野末で、その後は、佐藤、下柳は最後でいい??』
『・・・・・』
誰も返答出来なかった。
すると、石井君が切り出す。
『ハイ、決まり、野末、行きなさい・・』
『・・・』
『サッサと行けって言ってるんだよ、馬鹿野郎!!』
良太が躊躇していると、男の言葉の大声が社内で響いた。
迫力に押される様に、良太は驚いてドアを開け外へ飛び出た。
それで、言われた様に、車とは逆方向にゆっくりと歩き出した。
車から数百メートル離れた所で、良太は少し冷静になり、その大声の主が石井君だったとその時気がついたのである・・。当然、振り返る事は出来ず、唯ユックリと歩く事しか出来なかった。




