23. GTM(グレート テーチャー マルイ)と石井君(起)
受験が終わり、高校への初登校した日、良太は直ぐに丸井先生が待つ職員室に向かった。
先生は、良太の顔を見るやいなや直ぐに良太へ謝った。
『野末、悪かったな、あの日オレ、感情的になっちまってよう・・・。』
先生は、申し訳そうな顔をして良太の目をジッと見て謝った。
『丸井先生、止めて下さい・・・。』
『先生は、先生からの電話の御蔭で、・・・オレ、思い残す事ないほど、やれたんですか・・』
自分の思っていた言葉を最後まで言えず、良太は声は殺したが、朝の人が少ない職員室で泣いてしまったのを覚えている。
『ば~か、なぐなって、男だべ、男は泣いたらダメだべ・・』
『試験、どうだったなや・・・やっぱダメか、ダメだったか・・』
丸井先生の声は、優しく、自分の子どもに確認するような声で、そう言ってくれた。
『んだけどぉ、オレが言ったとおり、オメェ、全力でやったんだべ・・?』
『んだば、胸張れぇ。胸はれぇよ、野末、オメェは、戦ったんだ・・・』
『オメェは、オレの自慢の生徒だぁ、・・・胸張って、戦って帰って来たんだ』
『良くやった、良くやった。オメェはよ、何時も最後は頑張れるオトコだ。』
『胸はれ・・・なあ、野末・・』
そう言う丸井先生は泣いていなかったけど、先生の目は真っ赤だったのを覚えている。
良太の中で、丸井先生が人生で巡り合えた貴重な恩師第一号になった日であった。
良太は、朝の職員室での事は誰にも話さずその日は無難に一日を過ごした。
卒業を控え、進学や就職活動の為に授業を欠席する生徒も少なくなく、クラスの皆全員が巣立ちの日を意識せざるを得ない時期であった。
それから、直ぐにクリスマスがあり、高校最後の正月を迎えた。
良太の受けた大学の発表も、あれよあれよいう間に、直ぐにやって来たのであった。
推薦入試の合格発表の結果は、良太自身にではなく、良太の高校へ来た。
確か、1月の上旬であった。授業を受けていると、丸井先生が突然教室に入って来て、嬉しそうにその時の授業の担当の先生に挨拶し、良太を少し借りますと許可を得る。
野末、大学から合格発表がきてる。未だオレも見てネェ、一緒に来い。
どよめくクラスメートを後にして、良太は丸井先生の後を追って職員室を出た。
職員室へ向かう良太の心は、人生で一番緊張していたと思う。
それは生徒会長に立候補した時の高鳴り以上だったかもしれない・・。
『野末、お前が開くんだ。』
丸井先生は、言葉少なにそう言うと、A4サイズの封筒を良太へ手渡し、そして小さいハサミを手渡した。
良太は言われるままに、借りたハサミを使い、慎重に封筒を開くと、白い紙が出て来た。
その紙には簡潔に、●●××に行われた試験の結果、左記の方は合格致しました事を通知いたしますと書かれていた。
『先生、オレ、合格できたみたいです。◎×大学に・・』
『野末、マジカ、マジなのか、俺にも見せてくれ!』
『ウオゥ、マジかよ、野末ぇ。ヤッタでねえが!!』
『ホレ。オレ言ったべぇ、最後まで分らねぇって・・・』
良太は、丸井先生が、そのセリフを言った事は覚えていなかったが、そんな事はどうでもよかった。
それは、良太の実力ではなく、丸井先生が起こした奇跡という事は否定できなかったらだ。
その時の先生のはしゃぎよう、今もなお、良太の脳裏に焼き付いている。
クラスに帰り、先生は直ぐにクラスの皆に発表する。
『野末がやったぞ、喜べお前ら。。』
『お前ら、未だ進路決まってねぇ奴、皆、野末に続けぇ』
『頑張ろうぜェ・・』
先生は、皆を励ます様にそう言った。
そのクラスの中に、数名のクラスメートがいなかった。
石井君と、石井君の中の良い数名がその日は学校に居なかったのである。
しかし、その自分にとって人生最良の日が、まさか良太の高校生活の中で最恐の事件が起こる日になるとはその時の良太は想像もしていなかった。




