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18.『出た杭は打たれるが、出過ぎた杭は打たれないって言うのよ、アンタはどっちになるのかしらね』と石井君はいった

『野末さんだっけ、当然、貴方(あなた)は選挙に出たのだから、生徒会に入るわよね・・』


投票日の次の日、良太は3年生職員室に呼ばれ、生徒会の顧問の教師にそう告げられた。


『生徒会は、人手が足らなかったから助かるわぁ』


当時、50代半ばぐらいだった生徒会顧問の加賀先生(女性)は、その表情も、アンタが手を挙げたんだから、責任取るのは当然でしょうという様に、サインする事を前提に机に生徒会所属の申請用紙を机に出し、良太にサインを求めた。


当時の良太は、言われるがままに渡された紙にサインをした・・・が、中年になった今でも、当時を振り返ると彼女のその振る舞いには、責任と言う言葉を振りかざす、ある種の大人の狡さがあった。


担任の丸井先生とは正反対の場所にいる教師の方だったと思う。


丸井先生も、加賀先生の様な大人の狡さがあったが、彼ならこう言ったであろう。


『オウッ、お前が野末か?、お前の演説会の演説聞いて、オレドテン(ビックリ)したぞ。選挙は残念だったが、お前の熱意で生徒会を助けてくれよな、一緒にやろうぜ、頼むな、それじゃサインしてくれ』


責任を取るのは当然でしょではなく、オマエすごいなぁ、その力でおれ達を助けてくれよでは、頼まれた者のモチベーションは雲泥の差なのは当然である。


その日から、約1年半の間、良太は生徒会の一員として学校行事に関わるのだがあまり良い思い出は無い。


別に、生徒会の仲間達との相性が悪かったというわけでは無いと思うが、今思えば、いきなり、2年生の後半になって入ってきたオールドルーキーは、当人にとっても又旧来の生徒会のメンバーにもとっても対応が難しかったであろうと思う。


生徒会には、数名の女子たちもいたので、男子クラスだった良太も普通に好きな女子ができるかなと期待したが、終始女子からの色物扱いは変わらず、当然期待してたような事は起こらず、変わらない3年間だった。


こんな事も有った。


選挙の演説会が終わった次の日、廊下を歩いていたら、急に他のクラスの生徒に声をかけられた。


トイレに呼び出され、いきなり胸ぐらをつかまれ、『オマエ、生意気なんだよと・・』と因縁をつけられた。


どうやら、その生徒が選挙で演説していた良太の様子に、腹を立ててたらしい。


そうこうしているうちに、その仲間らしいヤツも入って来て、二人で因縁をつけて来た。


(選挙に出て、目立った事が生意気なら、オマエらも、選挙に出ればイイじゃないか)


(選挙に出る勇気も無い奴らが、出た奴に、生意気だと因縁をつけるのは筋違いだと・・)


良太は因縁をつけられたながらも、その二人に反発心もあってそう思ったが、その気持ちを言える勇気は無かった。


(もし、こいつらが殴ってきたら、職員室に行こうと・・・)と、良太が覚悟を決めた時だった。


その時、直ぐ傍の水洗の洋式便所の部屋から、流す音が聞こえた。


扉が開き、中から出てきたのはハンカチを口に咥えた石井君だった。


石井君は、良太たち3人をチラッと見たが、通り過ぎスタスタと手を洗うと、咥えたハンカチを手に取り、ユックリと手をふく。


『佐藤と、袴田じゃない』


『その子(良太)、うちのクラスの委員長なのよね、あまりイジメないでくれる』


『その子が学校来なくなると、アタシが副委員長だから、大変になるのよね』


『まあ、その子を虐めたくなる気持ちは、アタシも分かるけどぉ・・』


声をかけられた二人は、自分達の悪事を見られたようなバツの悪い顔をしながら、石井君に2.3の言葉のやり取りをして、その場から居なくなってしまった。


二人が居なくなると、石井君は、自分の額に手を置き、頭を振りながら、出来の悪い生徒に注意する様に良太へ話しかけてきた。


『あの二人、アタシと中学一緒だったのよ・・・アンタが、選挙なんか出て目立つから、そうなるのよ』


『ああいう(やから)たちからすれば、アンタなんか良いカモよ・・』


『まあ、当然ね、出た杭は打たれるって言うじゃない。アンタなんか、2,3回打たれた方がいいかもねぇ・・』


石井君に助けられたと思った良太が、御礼を述べた後、頭を下げると、甲高い声が響く。


『いやぁ、アンタぁ、酸っぱい匂いがするわ・・』


と、石井君はワザとらしく大きい声を出し、身を躱すようなそぶりをして付け加えた。


『でもね、出た杭は打たれるが、出過ぎた杭は打たれないって言葉もあるのよね』


『アンタは、どっちになるのかしらね・・・まあ、アタシには関係ないけどさ』


石井君は、捨て台詞を残し、スタスタとトイレからでて行く。


そして、扉の前で、又お約束の様に『酸っぱい匂い、嫌ぁ』と言葉を残し去って言った。


良太は、言葉の裏に隠された石井君の優しさに感謝した。


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