14.セカンドミッション【前】
新たに良太の前に現れた光景は、秋のホームルームだった。
『それとよ、オメェら、11月●日に、生徒会長と副会長を決める全校会議があるってよ』
『どうだ、この中で生徒会長になりたい奴いるかぁ!、副会長でもいい・・』
『もし、希望者がいたら、オレの処に来い・・・来週の金曜日が締め切りだってよ』
丸井先生は、そう言って教え子達の顔を見渡す。
(・・あの日だ、オレの人生の転機のキッカケになった日・・・)
(・・・この時、オレは自分とは関係ない、別世界の出来事だと思って、真剣に聞いていなかったな)
この日、学校に来ていなかったら、自分の人生は全く違う事になっていたなと良太は思った。
中国にもいかず、国際結婚もせず、離れ離れにされた娘も生まれなかったかもしれない。
良太の心に刻まれ、消せないキズが、彼の高校時代の思い出を後悔させた。
娘が生まれ、幸せを感じていた30代の頃だったら、キラキラ見えたのかもしれないが、今は目が違う。
良太の目は、変わってしまったのだ。
(人生は、総て自分の選択に帰結する。悲しいが、それが現実だ・・)
良太のそんな気持ちを無視する様に、30年前の級友が発言する。
『先生、居るワケ無いじゃない、そんな面倒な事、自分からしたい奴なんて・・・』
『確か、去年副会長やってる子、アタシたちと同じ学年だったと思うわ』
『その子の信任投票で決まりでしょ、確か、去年も、そんな感じだったし』
石井君が、丸井先生の問いを遠回りに時間の無駄だと言った・
『石井よ、オメエの言ってる事は、正しい、・・確かにそうかもしんねぇよ』
『だけど、ツマンネェな』
『若さがねぇ、やる前から終わりを決めたら、人生つまらねぇぞ、未だお前らには分んねぇかもしれねぇが、若いからなぁ』
丸井先生は、そう言って次の話題に切り替えた。
丸井先生が話題を変えた処で、再び良太の目の前の光景が変わる。
目の前に、2年生の職員室のドアが出て来る。
良太の前に、16歳の良太が通り過ぎ、緊張しながら職員室をノックし、入って行った。
(・・・・。)
良太は、30年前の自分の後ろに着いて、職員室に入って行った。
(きっと、あの日だ、丸井先生がオレに・・・、人生を決めさせた日。)
ホームルームから数日後経った後の放課後、良太は自ら志願して受けた全国統一模試の結果を取りに職員室の丸井の元へ行った日の情景であった。
丸井先生は、先に良太の試験結果に目を通していたらしく、片手で頭をさすりながら、良太にかける言葉を考えている様だった。
良太の試験結果は壊滅的であった。
『・・・・この結果だと、厳しいなぁ(一般入試で普通の大学を目指すのは)』
『オメェの内申点であれば、系列の北里商科大学だったら内部推薦で行けると思うけど』
『野末の希望は、東京の大学に行きてぇんだよな・・・』
『・・・・東京の大学、推薦入試受ける・・合格する為には』
『野末、オレはオメェの内申書に華を持たさなきゃいけねぇと、思うんだが・・』
『野末、オメェ、オレに着いてくる、度胸あるか?』
『・・・意味が分かりません、着いてくるって、何処にですか?』
『お前が商附の生徒会長に立候補するんだよ・・・・』
『???、無理です。オレ、そんな人望も、能力も有りません』
『選挙に出てもオレに票を入れてくれる人なんて、恥をかくだけですし、万が一、受かっても、できる自信も有りません』
『・・・野末、やる前から、決めつけんな、って何時もオレが言ってるだろ』
『オレの経験、オレの勘なら、オメェなら出来ると思ってるんだが・・』
丸井先生は、座ってた状態で、金縁メガネの下から、ジッと良太の顔をみて、そう言った。
『・・・』
『・・・・先生は、オレの1年の頃の状況を、知らないから、簡単にそんな事言えるんです』
30年前の良太は、断りたい一心で、自分の心にしまっていた黒歴史を打ち明けようとした。
『オメェ、1年の頃、何かあったのか?』
『・・・・・』
30年前の良太は、他の先生の耳が気になり、丸井先生の問いに即答できなかった。
そんな良太の様子を見て、丸井先生が助け舟を出す様に、良太に提案した
『ここじゃ、落ち着いて話せないな、野末、教室で話すか』
『・・・ハイ』
『じゃあ、オメェ、先いって待ってろ、オレも直ぐ行くから』
30年前の良太は、無言で頷き、一度を頭を下げ、その指示に従い、2-Dに向かった。