13.D組ミスターチルドレン(マセガキたち)代表 石井君 (後)
石井くんは、学校に5日のうち、2日は来ないような子であった。
パッと見、普通の子なのだが、よく見ると耳にピアスをしてるなど、当時の良太からすると、オシャレというか、奇抜な変わった級友であった。
当時、先入観の強い良太は、おネエ言葉の彼を少し警戒していた。
実は、男が好きなんじゃないかと・・・。
ある日、その疑問を石井君と仲の良い、下柳君にぶつけてみた。
すると、予想だにしない言葉が帰ってくる。
良太の質問を聞いて、下柳くんは、大爆笑しながらこう答えた。
『・・・あれは、キャラだよ。石井君の、だって石井君、彼女いるらしいよ』
『たしか年上で、しかも子持ち・・・ウソか本当か3歳の男の子が居るって、本当かどうかはわからないけど』
『・・・・・・本当?』
良太は、彼女がいない、それどころか、商附に入ってから、同年代の女の子とまともな会話させもした事が無かった。
『・・マジか?』
その為、良太がその時石井君に感じた敗北感はとてつもなく大きかった。
『何、野末、お前、マジで石井君が男を好きだと思ってたのかよ?』
『いっちゃおうかなぁあ、石井君に、怒るぜェ』
『ってオイ、どうした、野末!何処に行く?』
その後、ショックが大きすぎて、下柳君と話した事は、全く覚えておらず・・・多分こんな感じであった。
当時、良太は180㎝、70㎏。自分より二回りぐらい小さい体の、下手すると中学生ぐらいに見える石井君、しかもオネェ言葉、そんな彼が大人の女性と交際してる事実。
石井君は、高校時代の良太の常識では理解できない生徒だったのである。
その後も頻繁にあった自習時間に、良太の耳にも、何度か石井君が彼女の事を話しているのが聞こえて来た。
『昨日さ、遊んでたのよ、アタシの彼女の子どもとね』
『卓君って、言うんだけど・・拓馬でたっくんね』
『本当可愛いのよ、3歳で、アタシが笑うと、キャッキャッ喜ぶしぃ・・』
『そしたらさ、横で見ていた彼女が言うのよ、二人を見ていると父子みた~い、キャッて』
『何か、それ聞いたら、アタシ急に腹が立ってきちゃって』
『言っちゃったのよ』
『・・・・エッ、何をよ』
下柳君が、その場で耳を澄ましている級友全員の問いを代弁して聞いてくれた。
『馬鹿こくな(馬鹿な事言わないでの意)、高校生と3歳の子を捕まえて、何が親子よ』
『そんな、非常識、世間が許す訳ないじゃないって・・』
『アンタね、そんなだから、男に子供作らされて、捨てられるのよ、もっと大人になりなさいって』
『石井君も、大人じゃないよね・・大人になりなさいって、何か説得力なくない』
『・・・そりゃそうなんだけども・・そしたらさ』
『泣くのよ、その子』
『そういう意味じゃな~いって』
『アタシも、仕方ないから、ヨシヨシ(慰めるの意)したけど』
『心の中で、じゃあ、 どういう意味よって、思ってたわよ・・・』と言い、石井君は何時もの様に笑い出す。
何人かの生徒が、堪えきれず笑い出す。
『石井君、何かもっともらしい事いってるけど、・・・石井君もズルくない・・・』
『アッ、分かる・・・・そりゃ、そうだけどさ』
そう言って、悪びれもせず、また笑い出す石井君。
良太はそんな彼を、大人の世界に一足も二足も先に進んでいる彼を、驚きの目で見ていた。
高校生の良太は、石井君を知れば知るほど、彼の大胆さには、憧れも持ったが、彼のその度胸、怖いもの知らずな所に言葉に言い表せない不安というか、危ういモノを感じていた。
石井君は、同じクラスメートだけど、自分とは違う世界に生きていると良太は心の何処かで思っていた。
あの日までは・・・。