12.D組ミスターチルドレン(マセガキ)代表、石井くん(前)
良太にとって、高校時代一番衝撃を受けたのは、間違いなく石井君だった。
最初、おネエ言葉を使う石井君を、良太は実は心は女性なのかっと疑っていた。
言動もそうだが、何かと話す話題が女性ぽいのである。
聞けば、石井君は末っ子、年の離れた姉二人がおり、話し方はその影響だとか・・。
彼の話は、何処まで本当だったのか分らないが、自習時間の度に、良太の耳に否応なしに聞こえてくる石井君のバカでかい声。
あの小さい体からは想像できない、響く声。
体型は違うが、良太が初めてTVでマツコデラックスを見た時、巧みな話術、頭の回転の速さは、そして独特のオネェ言葉、そして時折優しさをみせる彼女(彼?)のキャラクターが、石井君を思い出させた。
自習時間に彼が話す内容は、どこか大人びていて、どこかリアルで、そして笑える面白い話ばかりだった。
良太の脳裏に残る彼の会話を思い出した。
『2番目の姉がね、昨日、アタシに彼氏ができたって報告してきたのよ・・』
『実はね、アタシ昨日それ聞いて、泣いちゃったのよ。あの出来の悪い子が・・』
『もう、そんな齢になったんだなって・・・ウウッて』
『チョット寂しい気持ちになっとけど、これも弟として、乗り越えなければならない試練なのかなって・・ね、そう思って』
『オメデトって、涙堪えて言ったのよ』
『そしたらね、あの子(石井君のお姉さん)、彼氏をタークン(※石井君の本名タカシの略らしい)に見て欲しいって』
『そりゃあ、二つ返事に決まってるでしょ。大事な子(注 石井君の姉)にウジ虫がついたら困るから、親(※石井君は、そのつもりになるぐらいお姉さんが大事)として、モチロン見定めてやるわ』
『ッテ事で、今週末、姉の彼氏に会うのよ、ああ、憂鬱だわ、って言うか、心配』
それを聞いていた、石井君の席の前に座る、佐藤君が何気なく、石井君のおネエさんの年を聞く。
『23よ、何か問題ある・・・』
『エッ石井君より7つも上、もう立派な大人じゃん、ホッといていいんじゃない』
『嫌よ・・』
『だって、面白そうじゃない・・』っていって石井君は笑い出すのであった。
『石井君、絶対心配じゃないでしょ、目的は?』
『ムフッ、アンタ何よアタシの姉を思う気持ちを疑うつもり』
そう言うと、石井君は自分でも爆笑するので、良太は石井くんの真意がどこにあるのか、正直分らなかった。
オバタリアンと言う言葉が、昔あったが、石井君の会話は、どこか主婦の井戸端会議的な響きがあったのを思い出した。
こんな話題もあった。
『先週さ、うちのババア(お母さんの意らしい)がね、トンデモナイ事をアタシに相談してきたのよ、ネェ、アタシの悩み聞いてくれる?』
『エッ、何?聞く事ぐらい出来るけど・・』
石井君の右隣にいる鈴木君が、興味本位もあり、相づちを打ちながら話を聞こうとする。
『タカシ、お父さんが浮気してるかも、本当にしてるかどうか尾行してくれないって』
『エッ、・・・ソレやばいじゃん、で、尾行したの石井君、おとうさんを』
『したわよ、自分の母親に頼まれちゃね、アタシ男だし・・・』
『カメラ持って行ったわよ・・・』
『親父の車に気づかれない様に、原付で』
『で❔、石井君のお父さん、浮気してたの??』
『・・・女の人はね、見れなかったの・・』
『じゃあ!、良かったじゃん、疑いは晴れたんだね・・』
多分、この時、D組の教室の皆全員が、耳を澄ましていた筈だ。
『もっと見たくないもの、見ちゃったのよ』
『エッ・・・・』
『何を見たの??』
『小さい、小学校に入るくらいの肌が黒い、男の子がね、フィリピンとかソッチ系の東南アジア系だと思うわ・・・』
『車から降りたオヤジを見つけて、パパァって・・・走って、アタシの前で抱きついたのよ』
『・・・』
あまりの話題の飛びように、普通の高校生の鈴木君は、言葉に詰まり。
なんとか捻り出した言葉が、『・・・大丈夫、石井君の肌も黒いから』
『アンタ、それ、フォローのつもり??』
『アタシも父の愛人の子だって、フィリピン系だって!ぶん殴るわよ』
と言って、石井君自身も笑いだすから、話しの真偽はわからない。
しかしこれだけは言える。彼は、間違いなくD組のミスターチルドレン(マセガキ)の代表だった。
ドラマよりも、身近な存在である石井君のアダルトな話に怪しい魅力を感じていた。
しかし、石井くんは、作り話の天才では無かった事が、その後、良太が身に染みたのは未だ先の事だった。