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10.D組の運動会(1995夏の日)(中)佐久本さん

『だれか、アイデアのある人、いませんか?』


16歳の良太の問いかけに、当然誰も手を挙げない。


会を進行する良太は、仕方なく手当たり次第に座っている同級生の名を言い,、指名し意見を出させようとした。


『吉田君、何か意見はありませんか?』


『有りません』


ほとんどの級友(クラスメート)の返答は、こうである。


『佐久本さん?意見有りますか?』


当時の良太は、クラスの委員長たるもの、平等に聞いていかなければならないと、若いながらの生真面目さというか、幼いながらもリーダーに対する美学があった。


良太は、あえてクラスの不文律(ふぶんりつ)を破り佐久本さんにも質問した。


一瞬で、クラスの空気が変わる。


(オイオイ、マジかよ?)


(アイツ、やりやがった)


(よりによって、佐久本さんを指名するなんて・・)


ガヤガヤしていた教室に、急に沈黙が走り、現在、過去両方の良太には、その沈黙が、級友たちの心の声が、聞こえて来る。


指名された佐久本さんは、最初、自分が指名された事に気づかないでいたが、周りの注目の目で察し、その後、ビックリした顔で、エッオレかという様な感じで、自分を指さし、良太に無言で、確認する。


(エッ、お前、ナニ、今オレに質問したの?)という感じであった。


佐久本さんは、その後、フッと溜息をついた様だった。


その時の溜息には、短くも良太に佐久本さんの心情を察しさせるモノであった。


(ウーン、仕方ないなぁ、多分野末は、オレの事知らないんだなぁ、ヨシ)


佐久本さんは、その場で自分から(指名されて、立ち上がって意見を述べた人は佐久本さん以外いなかった)慌てて起立し、『・・・有りません』と一言いい、座ってしまった。


佐久本さんとは、正直それっきりだった。


良太は、その後、佐久本さんと一度も会話らしい事無く2年間を過ごした。


ただ、その時の仕草だけで人の良さが伝わってきた。


佐久本さんは、D組で唯一『さん』と、敬称で呼ばれる人だった。


最初の頃、クラスメートが彼だけを敬称で呼ぶのは、何故だろうと良太は分からなかった。


佐久本さんは、スラっとした人で、髪をオシャレに染めた物静かな人で、何時も大抵、音楽雑誌や漫画をみている様な人だった。


休み時間になると、奇抜な色で髪を染めた、耳にピアスをした数名の他のクラスの人達が会いに来る人だった。


2-Dになり、半年ぐらいたった頃、佐久本さんが音楽をやっている事を級友の誰かが教えてくれた。


(あ、なるほど、音楽の分野で実力があり、皆から慕われて、さん付けて呼ばれているんだな)


と早合点し、納得しようとした良太であったが、不文律の本当の理由は違った。


良太が、クラスの不文律の本当の理由を知ったのは、3年に進級した頃だったと覚えている。


それは、他のクラスの担任が佐久本さんに話しかけている言葉を偶然聞いた日であった。


『佐久本、頑張れよ、お前も高校で成人式迎えたくないだろ・・今年必ず卒業しろよ』


『・・・』


佐久本さんは、その先生の言葉に、無言で一度だけ頷いていた


社会に出ると、2歳の年の差など無いようなものである。


しかし、当時高校時代の良太たちの中では、2歳の差は、とてつもなく大きかったのである。


COMPLEX時代の吉川晃司みたいな髪型をしていた佐久本さん。


小室ファミリーという言葉が未だで始める前だったと思う1995年夏。


部活に入らず、自分を燃やせるモノを学校に見いだせない高校生たちも多かった。


そんな高校生たちは、学校(ひと)から与えられた行事、勉強(もくひょう)には熱くなれず、しかし何か熱くなれるモノを探していた。


与えられた行事でも、一生懸命取り組めば、熱くなれる、良い思い出になると、丸井先生は自分がうけもつD組に伝えたかったと思うのだが、それほど若者は簡単では無かったのであった。


議論が始まらない、つまり終わらない。あっという間にチャイムが鳴る時間が近づいて来た


堂々巡りの学級会、16歳の良太を救ったのは、以外にも冷めた学生の代表石井君であった

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