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昨日のこともあり、授業中はなんだか落ち着かない。百パーセント俺が悪いし、隣の席を見る限り当の本人は全く気にしていないようなのだがそれでも居心地が悪い。
俺は教科書をちぎり、切れ端に「ごめん」と書いて折り畳む。先生が板書をしている間に、それを真白の机の上に置いた。
真白は黙ってそれを手に取ると、躊躇う事なく窓の外にポイと捨てた。一瞥すらしなかった。
さすがに凹む。
開けて無反応ならまだ良い。でも気恥ずかしさも承知で書いた言葉なのに、日の目を見る事なく捨てられると、もうめげそうになる。
一人がっくりと項垂れた俺は予備の『楽』の感情リキッドを口に流し込んだ。
湧き上がる感情がさっきまでの鬱々とした気持ちを吹き飛ばす。
リュックから日課にすることに失敗した新品の日記帳を取り出し、一枚ビリッと破いた。その音に数人がこちらを向いたが、俺は無視して大きく「ごめん」と書いた。
そして今度は机の真ん中に置く。
真白はそれに視線を向けると、くしゃくしゃと丸めて外に捨てた。
奇怪な行動に見えたのだろうクラスメイトが、ヒソヒソと悪口をぼやく。俺のせいであり、真白ゆきに非はない。しかし授業中に弁明をする勇気は俺にはなかった。
もうやめよう。
次を最期に。
俺は日記帳に「昨日はごめんなさい」と書いて真白の机の上に置く。
さすがにしつこいとは自分でも思ったが、過程はどうであれ謝ることが重要。
まぁ先生に隠れて隣の席のクラスメイトとこそこそやり取りをしていることが、妙に楽しいのは否定できないけれど。前回の席が教卓の前だった反動かもしれない。
三度目の正直。
前回の三度目の正直チャレンジは、頬を叩かれ涙目で敗走して終わったけれど、今回は成功したようだ。
さすがに日記帳ごと窓の外に放り投げるのは忍びなかったのか、真白は何かを書き込むと引き出しにしまった。
「あっ」
思わず上げてしまった声に古典の中谷が反応する。
「さっきからこそこそと、なんだ? 真面目に授業を受ける気がないなら迷惑になるから帰りなさい」
鋭い眼光に内心怖気付きながら、不貞腐れたように「すみません」と答えた。
その様子を見ていたクラスメイトが小さく笑い、嘲笑の対象にされる。
叱られた俺は立てた教科書の影に隠れて、なるべく向けられる視線を減らした。
俺が発端とはいえ、真白もこそこそしていたじゃないかと非難の目を隣に向ける。
俺だけ怒られて、真白には注意すらなし。涼しい顔で平然と授業を受ける姿に憤りを感じた。
ただの逆恨みなのだろうが、それでもあの我関せずといった表情を剥がしてやりたいと心底思ってしまう。
小説を読んでくださり、ありがとうございます。
今後ともご愛読頂けますと幸いです。