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2


 それから俺たちは映画館のあるショッピングモールへ電車で向かい、こうして二人仲良く並んで上映を待っているわけである。


 人気のある映画らしく席は次第に埋まっていった。


 映画館で映画を観るなんて久しぶりで、飲み物やポップコーンを買うのをすっかり忘れていた。


 俺は隣の真白に目をやる。何もせずただじっと前を見て座っていた。


 まだ小さい声ならば雑談もしていいだろうし、スマホだってまだ触っていていいはず。それなのに真白は何もしていない。


 何か話しかけるべきかとも考えたけれど、俺は一言「飲み物とか買ってくる」と言ってその場を離れた。


 売店では多くの人が列を作って映画のお供を待っていた。映画に間に合うか少し不安に感じながら、最後尾に並び、何を頼もうか上部のメニューに目を通した。


 ドリンクメニューを始めとして、フードメニューも並んでいる。真白にも聞いておけば良かった。でもきちんと答えてくれるかな。また無視されるだけかもしれないし、気軽に質問をするなんて憚られる。


 まぁ無難なものでいいかとメニューを追っていると、『メガポップコーン』で止まった。


 通常の何倍も大きい容器に山のように詰め込まれたポップコーン。


 頼むべきじゃないよな。


 そう思い、行列が消化されるのを待っていた。


 それなのに、売店から戻る俺の手にはコーラと緑茶、そして小脇にはメガポップコーンを抱えていた。


 やってしまった。そう思っているのに、俺は妙に興奮していた。


 俺は自分の席に戻り、真白に緑茶を渡す。


「はい。何が良いか分かんなかったから、緑茶にしといた。それともコーラの方が良い?」

「ありがとう」


 差し出した緑茶を真白はあっさりと受け取る。それに「ありがとう」なんて、らしくない言葉まで言われた。


「今度返すね」


 相変わらず表情は読めないけれど、喜びがせり上がってくるのを感じる。油断すると口の端が持ち上がりそう。


 思わず「いやいいよ」と答えそうになって、喉元で止めた。


 今度返すってことは、また会えるってことだ。感情検査で真白の感情を知ることはできなかったけれど、ここに至る一連の流れから察するに俺は嫌われていないのではないかと思えた。


 俺の脳はこれまでの真白の言動を考慮し、ある結論を導き出した。


 真白ゆきはツンデレだ。もうそう思うことにした。


 俺は席に座りながらメガポップコーンを見せて、「食べる?」と聞いてみた。


「いい」

「そうだと思った」


 冗談半分に尋ねたに過ぎない。でも、その半分は期待が占めていた。


 俺は買ってしまった巨大なポップコーンを膝に置く。広口から香ばしい匂いが立ち上る。空腹なこともあり、案外一人でもいけるかもしれないと根拠のない自信が湧き起こった。


 やがて映画館特有のコマーシャルが終わり、本編が始まる。それはヴァンパイアと少女の恋の物語だった。


 少女がヴァンパイアに恋をして、ヴァンパイアも少女に惹かれていく。人外の者と人間の間で紡がれる、ありきたりな恋物語だ。


 出会って間もない二人が激動の恋を経験するなんて、フィクション特有のご都合展開じゃないだろうか。以前まではそう考えていたけれど、今は違った。


 彼女に会ってから時間の流れ方が違う。緩やかでごく偶に乱れるこれまでの人生とは違い、短針を強引に押し進められたかのように感情や考えが目まぐるしく移り変わる。


 付いていけないと諦めようとしても、後ろ髪を引かれて、また戻ってくる。


 この濃密に詰め込まれた感情に順応するために生まれたのが『好き』や『愛』という感情なのだろうか。もしそうならば愛もいくらか機械的で、素っ気ないものにも思えてしまう。


 だからと言って俺はもう否定も拒絶も出来ないけれど。


 少なくともスクリーンの中の少女は、純粋な好きと愛を持っているみたい。


 映画の結末は、ヴァンパイアが少女を助けるために太陽の下に出てしまい、灰になった愛する人を掻き集める少女を映して終わるバッドエンドだった。


 映画で泣いたことは一度も無かったのに、気付けば涙が頬を伝っていた。俺は直ぐに頬を拭う。目が合ってしまうと言い訳もできなくなるから、隣は見なかった。


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