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今日も君に恋をする  作者: ゆるりりら
感情リキッドの作り方等
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感情リキッドの作り方


「じゃじゃーん」


 君月桃貴は長い髪を揺らしながら、楽しそうに自慢を始めた。


 「見せたいモノがあります」と言われて、あかりを亡くして茫然自失としていた俺が招かれたそこは、フィクションの中にだけ存在しているような実験室だった。あかりとは違い高校生の頃から理系を苦手としていた俺には無縁の場所思っていた。ただでさえ実験室には良くないイメージを抱いているのに、そこは一見して深入りしたくない雰囲気が漂っている。


 君月の案内に従い進んだ先は、途中とは異なり暗くて少し不気味だった。加えてそこには布に覆われた巨大な物体が静かに佇んでいた。


「これは一体?」

「公人君の喜ぶモノですよ」


 そう言うと君月は大袈裟な動作で勢いよく布を剥がした。


 隠されていたモノが姿を現すとその異様さに面食らってしまう。それは実験室に相応しい透明で巨大なタンクだった。それがどういったモノなのか全く分からないが、中に浮いている塊に言い知れない悪寒がゾクリと走った。


 あまり近づきたくなかったので、少し遠巻きに見ていたのだが「もっとよく見てみてください」と君月に促されて近づく。


 暗くてよく見えなかったので覗き込むように見てみると、中のそれと目が合った。


「うぉ!!」


 俺は驚いて後ろに倒れ、しりもちをつく。そんな様子を見て、君月はケラケラと笑っていた。


「何が居るのか分かりましたか?」

「人……人体実験でもしているのか」


 アレは紛れもなく人の目だった。正面からじゃ分からなかったが、角度をつけて見てみると人間が胎児のように姿勢を丸めていた。


「まぁそういうことになりますね」


 その言葉を聞いて俺の脳裏に生前のあかりの姿が思い浮かんだ。


「まさか、あかりもこんなことを?」


 近しい人はもちろん、その優しさを世界中の人にまで向けていたあかりが人体実験をしていた……。


「こんなことあかりは許してくれないでしょう。これはあかりが亡くなったから始めた新しいプロジェクトです。しかし可哀そうだとか、気にする必要はありませんよ。外部の環境から完全に遮断され、既に五感を全て無くしているのですから」


 悪気など微塵もなく、君月は堂々と口を開いた。


「人体実験はダメ、だなんて言わないでくださいね。これからは公人君が管理をするのですから」


 目の前の人物が何を言っているのか分からなかった。


 俺が人体実験を管理?


 突然言われた意味不明な言葉に戸惑いを隠せず、疑問の表情を浮かべていると、君月が不思議そうにこちらを見つめてきた。


「アレが誰か分かりませんでしたか?」


「誰って?」


 俺ははっとして再びタンクに張り付くようにして、中に浮かぶ人物に目を向けた。しっかりと心の準備をして見てみると、最初の時よりも詳細に観察できた。性別は男性で、あどけない表情からまだ学生のようにも見える。


 あかりかもしれないと思ったが、当然違った。そもそもあかりの葬式だって執り行って、火葬されるのも見届けた。


 思わずほっとすると同時に「どうしてこんな子を」と当たり前の感想が湧いて出た。するといつの間にか、すぐ隣に来ていた君月がその視線を真っ直ぐタンクの中に向けて言った。


「あかりを殺した犯人ですよ」


 大きく心臓が鳴った。


 何か言葉を返そうとしたけれど、さっきまでの軽佻な雰囲気を一転、真剣な眼差しでじっと見据えていた。


「犯人の動機は聞きましたか?」

「……いや」

「『つまらない人生を送るくらいなら、死刑になりたかった』ですって」


 君月はゆっくりと振り向き俺と真正面から視線を合わせた。


「許せますか?」


 俺は……何も答えられなかった。何を答えるべきなのか分からなかった。


「許せないでしょう。死にたかったから人を殺して死刑になろうとした、だなんて。そんなことであかりは殺されてしまったんです」

「許せない……確かに許せないけど、でもこんなことをしていい理由にはならない」

「なりますよ。さっきも言ったでしょう。外界から遮断して五感も奪ったと。もう自分では何も感じられないんですよ。『人生がつまらない』なんてことも考えられない。僕が救ってあげたんです」


 反論しようとして俺が口を開くと、君月は静止する。


「それに彼はもう死ぬよりも幸せな人生を送れているんですよ。僕が『楽しい』という感情以外を全て取り除いてあげましたから」


 そう言うとタンク下部から伸びる複数の管を指差す。


「あれから薬を送り、『楽しい』という感情を採ります」

「薬?」

「はい。まぁ覚せい剤みたいなモノです」

「そんなこと――」

「してはいけないなんて言わないでくださいね。万全の環境でただ楽しい気分に浸れているんです。可哀そうだとか同情する必要もありません。楽しいを採って、楽しいにさせて、また採る。それだけのことです」

「そんなことして何になる!」

「世界がより良くなります。彼から採った『楽しい』という感情を誰でも簡単に感じられるんです」

「感情を取る……」


 それは確かにあかりが実践していたこと。


 でもあかりは溢れ出る分を取るだけで、こんな無理やり感情を取るなんてことはしていなかった。


「こんなことしてもあかりが喜ぶとは思えない」

「あかりは死にました」


 淡々と話す君月に怒りが湧いてくる。


 しかしそんな俺の心を見透かしているように、君月は続けた。


「あかりがどういう考えの下、殺されたかを考えるべきです。そして考えたのなら、この行為だってあなたの正義にはなるんじゃないですか?」


 理路整然と言う君月を前にして、俺はたじろぐ。


「でも、こんな人道に反することなんて……」

「人道に反して殺されてしまったのがあかりでしょう。それを被害者であるあなたがどうしようと道理には反していません」

「だからってーー」

「生前、あかりはよく言っていました。世界中の人が幸せになれれば、素敵な世界になるのだと。その第一歩がこれです。世界中の人間がいつでもどこでも楽しい気分に浸ることができるのなら、あかりを殺したこいつもまた楽しい人生を送れていたはずです。もしそうだったらあかりも死んではいなかった」


 淡々とそれでいて熱の籠った言葉だった。


「もう、あかりのような犠牲者を出すべきではないでしょう?」


 もう分からなくなってしまった。


「少し考えさせてください」

どこに入れようか迷っていたので、変わるかもです。


読んでくださり、ありがとうございます。

今後ともご愛読頂けますと幸いです。


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