②
震える手であかりが残した『愛』に触れようとする。
あぁ、もうやめようと思っていたのに……
あかりの愛に頼らずに生きていこうと決意していたのに……
それでも、今日もまたどうしようもなく『愛』を求めてしまった。
今日も心の奥深くで、あの日のゆきの言葉が何度も響き渡る。
「もう何も奪わないで」と耳に突き刺さるような痛切な声でそう言うゆきの姿は、父親としてあるべき心を深く抉った。
ゆきのことは誰よりも知っているから、その叫びの根源も知っている。だからもう、ゆきの感情を探ることも、それを奪うこともしないと誓った。
感情を奪うことも、最初はゆきのためだった。心の中心にはいつもゆきとあかりがいて、二人が居てくれるだけで幸せだった。
でもあかりが亡くなり、大きく空いてしまった心の穴を取り繕って徐々に憔悴していくゆきをただ見守るのはあまりにも辛すぎた。少しでも心が軽くなるようにゆきの感情を抜いてしまったんだ。
あかりが自慢げに日課を見せてくれたおかげで、機械の使い方も感情の読み取り方もすぐに理解できた。
だからこそ、初めてゆきの感情を見たときは驚愕した。悲しみや孤独、苦しみといった負の感情が大部分を支配し、正の感情を覆い隠していたのだ。
大きく溢れ出す愛をあかりがそうしていたように、ゆきの感情が自分自身を飲み込んでしまわないように感情を奪った。
やがて少しずつ感情に明るさを取り戻し、ゆきの表情にもその影響が見え始めた。
最初は上手くいっていた。あかりが殺されて、それでもゆきと二人前を向いて生きていこうとしていた。
でも……ごめんね。
もう無理かもしれない。
左手に愛を掴み、右手で注射器を持つ。震える手でなんとか瓶に針を突き刺し、愛を吸い上げた。
頬を涙が伝い、呼吸が乱れる。
心の中で何度も何度もゆきに謝り、そして止められない衝動に駆られ、愛を打った。
愛がじんわりと広がり、心が軽くなる。温かい気持ちで満たされ、また違う涙が自然とこぼれ落ちる。
ただ、ただ幸せ。
愛されているのだと紛れもない事実として実感できて、この瞬間だけは多幸感に満たされて生きていてもいいのだと思えた。
これはいけないことなのに……
独占するべきモノではないはずなのに……
でも、誰にも渡したくなかった。独占して、永遠にこの愛に依存したまま生きていたいと思ってしまう。
読んでくださり、ありがとうございます。
今後ともご愛読頂けますと幸いです。




