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「またいつでも来てくださいね~」


 最後の一言を言いに行った君月さんが戻ってくると、躊躇うことなく質問してきた。


「どうして反応してあげないんですか? 悠くんのことが好きなんでしょう?」


 直ぐに否定しようと顔を上げると、そこにはタブレットを見せびらかす君月さんの笑顔があった。


 これは人の感情を知ろうと思ってしまった罰なんだろう。揶揄ってくる相手に感情は既に筒抜けで、私は恥ずかしくなって俯いた。


「別に好き……じゃないです」

「そうですか。じゃあこれは機械の故障かもしれませんね。悠くんの結果も間違いだったようなので、急いで訂正してあげないと」


 立ち上がり、扉に向かおうとしたところで、思わず白衣の袖を掴んでしまった。


「どうしたんですか?」


 いつも余裕のある微笑みを浮かべている様子が、まるで掌の上で弄ばれているようで、少しイライラする。


 しかし、今は私の方が不利な状況にあるのは、否定できない事実だった。


「訂正しに行かなくても大丈夫です」

「しかし、私の研究者としての矜持が誤った結果をそのままにしておくことを許せません」

「だから……その……間違ってないというかなんというか……」


 尻すぼみになってしまった言葉は許されるはずもなく、「もう一度お願いします」とはっきりと聞き返されてしまった。


「だから……」

「仕方ありません。やはり間違いだったと伝えてきます」

「もも……君月さん!」

「以前みたいに『ももちゃん』と呼んでもらっても大丈夫ですよ?」

「高校生にもなってそれは……」

「あかりに連れられてやってきた時は素直で可愛らしい子でしたが、今はなんだかツンツンしていて可愛いですね」


 君月さんはソファに座り直すと、再びタブレットに目を向ける。


「この結果は合っているんですか?」

「……はい」

「つまりゆきちゃんは悠くんのことが好きということで大丈夫ですか?」


 『好き』という感情は人に強要されて自覚するものなのかな。なんだか違う気がするけど。


「……多分」

「強情ですね~。ゆきちゃんも随分と性格が変わりましたね」


 遠慮や配慮という言葉を知らずに育ってきたのだろうか。


 私だって自分で薄々感じていたし、以前の性格に戻そうにも戻せないのだから仕方ない。


 誰にも関わらないようにしていた弊害が出てきてしまった。以前の自分だったら好きな人が出来たらどう接していたのだろう。


 もっと好きなら好きと言えていたかな。


 今の私は呼び方一つ取っても分からない。柊悠? 柊君? それとも君月さんみたいにしれっと悠くんと呼ぶべき?


「少しくらい反応してあげても良かったじゃないですか」

「だって……恥ずかしいし」

「高校生同士の恋愛ってこんなに幼稚なものでしたか?」

「でも最後に喧嘩みたいな状況になっちゃったから」


 私がそう言うと君月さんは溜息を吐いて、机の上にあったスマホと財布を指差した。あられもない感情を暴露されてしまい、相当焦っていたことが窺い知れる。


「私も高校生の恋愛相談に乗っているほど暇ではないですから、それを届けてあげるついでに告白でもしてきたらどうですか?」

「そんなの絶対に無理!」

「でも悠くんは嫌われていると思っていますよ。好きだってバレたのに、その本人が無表情なんですから。随分悲しそうな顔をしていました……」


 諸悪の根源は自分だと言うのに、何故か君月さんが悲壮感を醸し出している。


「それにスマホと財布を届けてあげないと帰れないでしょう。途中で気付いたけど戻るに戻れない、そんな姿が目に浮かびます」


 小心者と自分で言っていたくらいだから、確かにそうなっていても不思議ではないかな。


「わざわざ私の所に来るくらいですから、色々と悩んでいるのは分かっています。ですが、気持ちは伝えないと意味がないですよ? 言われなくても感じられるのは私くらいのものです」

「君月さんこそ分かってないと思います」

「まぁ、そんなことはどうでもいいです。早くこれ持って行ってあげてください」


 手を取られ、その上に無理やりスマホ、財布、そして映画のチケットが乗せられた。


「なんですかこれ」

「恋愛映画のチケットです」

「なんで急に……」

「一緒にそれを観て仲直りできるといいですね」


 最後に学校で会ったときは叩こうとしてしまったし、さっきだって憎まれ口を叩いてしまった。そんな私が一体どんな顔をして恋愛映画を誘えば良いというのだろうか。


「ちなみにその映画の原作小説は私が書きました。是非楽しんでくださいね」

読んでくださり、ありがとうございます。

多分書き直します。


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