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待つように言われて、スマホを触ったり、机の上のお菓子を食べたりしていたけれど、君月さんはタブレットを見つめるだけで何も言ってこない。
そもそもどうなれば結果が出たと分かるのだろうか。
耳を澄ませても、机の中央に据えられた機械の音は単調で変わり映えがない。『ピー』や『ブー』といった分かりやすい音で知らせてくれるのだろうか。
いくら考えたところで分かるはずもなく、俺はただじっと待つ。時折左右に視線を向けるが、どちらも自分の世界に入り込んでいて、結局視線の行方は両者が視界に入るテレビに落ち着いた。
しかし待てど暮らせど、一向に結果が分からない。
俺は痺れを切らして、君月さんに直接尋ねることにした。
「まだ結果出ないんですか?」
「え? 随分前に出てますよ」
「随分前に結果出てるの?」
あまりにも自然に言うものだから、聞き返してしまった。
「ええ、ほら」
君月さんは熱心に見ていたタブレットを俺の方に向けた。そこには検査結果らしき文字や数字、グラフ等がびっしりと羅列されている。
「これがさっきの結果?」
「そうです」
「タブレットに出てたんですか?」
「ええ、情報はこっちに送られてきますから」
「なんで早く言わないんですか!」
俺の言葉に何故か君月さんが驚いた。
「言っていいんですか?」
「言わないなら何のために検査したんですか」
「それじゃあ言いますね」
言いますね?
嫌な予感が頭のてっぺんからつま先まで駆け巡る。
「検査の結果、柊悠は真白ゆきに恋をしています」
君月さんは声高らかにそう言い切った。
俺は思わず息を吞む。
何て言った? 今、君月さんは何て言ったんだ?
あまりにも唐突に告げられたそれの意味が俺には理解できなかった。
「え?」
「あれ? 聞こえませんでしたか? それでは改めてもう一度。今回分かったことは『柊悠は真白ゆきに恋をしている』ということです」
「い、いい加減なことを言わないでください」
俺は動揺しつつ、意味不明なことを口にする君月さんに強く反論する。
「私が開発した『感情分かる君』を疑うなんて心外ですね。きちんとデータが恋をしていると示しています。感情の項目としては色々出るんですけれど、まぁ見せても分からないでしょう。でも間違いありません。悠くんは恋をしています」
あまり自覚しないようにしていた感情をはっきりと告げられた。それも好きな人の前で。
真白が学校に来なくなって意識しないようにしていたのに。好きな人に嫌われたなんて思いたくなかった。
だからこそ自分を騙していたのに……それなのに……
俺はバレないように横目で好きな人を窺う。真白は表情をピクリともさせず置かれていた雑誌を読んでいた。
どんな反応を期待していたのかなんて、俺にも分からない。でも、何かしらの反応は望んでいたんだと思う。
俺はどうすればいい?
今まで祈ったこともない神様に言葉に出来ない何かを願う。
でも神様は信仰心のない高校生の願いは聞き届けられないらしい。
「ゆきちゃんのことが好きなのでしょう。数値を見る限り、好きな人が傍にでもいないとありえませんから」
こいつは人の心とか持ち合わせていないのか?
もう顔から火が出そうだ。多感な高校生の感情をまるで分かっちゃいない。
大体なんなんだこの人。感情を研究しているとか言っておいて、人を慮ることもできないのか。
俺は顔を伏せて押し黙る。耳まで熱くなっているのが分かった。「そんなことないです」とバレバレの虚勢を張るも情け容赦のない異常者は、その長い身体を活かして俺の頬を人差し指でぐりぐりと押してくる。
「ゆきちゃんのことが好きなんですね〜。そうですよね? もうバレちゃったんですから、いっそのこと男らしく告白したらどうです?」
悪魔だ。
こいつは人間界に顕現した悪魔に違いない。それも純粋な悪から生まれたとびきり下世話な奴。
「ゆきちゃんに恋していないとするなら……私ですか?」
はっとしたように言うと何故か照れたように笑う。
こいつはどこまで俺のことを馬鹿にするんだろう。
「いや~今日お会いしたばかりなのに、なんだか恥ずかしいですね」
俺は何も言わず立ち上がる。
一秒でも早く帰りたい。ただその一心で足早に扉の方へと向かった。
「あれ? また帰られるのですか?」
挑発を受けて睨みつけると、君月さんは心底不思議そうな表情を浮かべ、俺の方を見ていた。何が悪いのか本気で分かっていない。清廉潔白といった様子。
そして「あ!」と大きな声を上げると、俺の方を見て言う。
「好きな人の前で好きなことをバラしてしまって申し訳ございませんでした」
今度は態度だけは申し訳なさそうに謝ってきた。
俺は明確に目の前の人物が嫌いになった。ここまではっきりと人を嫌いになる瞬間を認識できることに驚く。
今再び、あの機械で俺の感情を分析してもらえば、今度こそこいつが嫌いという感情しか出てこないと思う。
「感情を研究しているくせに人の気持ちを分かろうともしないんですね」
俺は精一杯の捨て台詞を残して、部屋を飛び出した。
読んでくださり、ありがとうございます。
今後ともご愛読頂けますと幸いです。




