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 オープンキャンパスのために大学に着いたはいいものの俺は広場のベンチで途方に暮れていた。


 受付までの道のりが分からないとかそんな悩みではない。たとえこの大学に見合わない学力しか持ち合わせていない俺でもそこまで馬鹿ではない。構内の地図を見れば目的地にも時折迷うくらいで着いた。


 しかしそこからが問題だった。


 既に先着での受付は終わっており、行く当てがなくなってしまった。つい数時間前まではオープンキャンパスという文字すら頭の片隅にもなかったため、正直行く人もあんまりいないのではないかと考えていた。だから先着だとしても余裕でいけると思っていた。


 でも現実は違うらしい。大学ひいてはその先のことまで人生設計に組み込んだ頭の良い人間たちは、オープンキャンパスの予約はもちろん先着に懸ける思いも違うのだろう。


 というわけで俺は見知らぬ大学の構内で独りになってしまった。


 特段この場に来たかったわけでもないのだから帰ってもいいけれど、せっかく電車を乗り継いでまで来たのにとんぼがえりというのも味気ない。


 それに家にいると鬱々とした気分になる。


 よし、せめて何か見てから帰ろう。


 俺はパンフレットをもう一度開き、何か面白そうなものはないか探す。気になったのはやはり派手な字体で強調された『君月研究室』。


 しかし普通に考えて、高校二年生が研究室を見学しにいくだろうか。早すぎる気がする。


 でも暇だしなぁ。外にいるのも暑いだけだし。ここを出て遊びにいくお金なんて感情リキッドで毎月お小遣いが飛んでいく俺にはないし。


「よし」


 意気込み新しく、俺は重い腰を上げた。


「一先ず行ってみるだけ行ってみよう」


 そう自分に言い聞かせて無理やり行き場を見つけた。


 パンフレットに書かれていた研究室のある棟には、地図と人に頼れば意外と早く辿り着いた。


 研究棟なんて全く縁のなかった未知の領域に足を踏み入れるのは結構緊張した。今だって廊下を歩いているだけなのにドキドキして落ち着かない。


 しかし全くの部外者が入り込んでいるのは色々と大丈夫なのだろうか。オープンキャンパスの時だけは特別なのかな。


 目当ての『君月研究室』は研究棟の三階の最奥にあった。


 三階への階段を上がり歩いていると、目的地の前で白衣を着た人とスーツを着た人が話し込んでいた。


 本当に研究者って白衣着るんだなと感動しながら近づいていくと、その人物の異様さが際立ってきた。


 すごい髪の色してるなこの人。グレー? アッシュ? 一体美容師さんになんて言えばこんな髪の色になるんだろう。


 それに身長も高い。百八十くらいはありそう。


「……分かりました。後日追加分を送っておきます」

「あぁ、ありがとう」


 会話が終わったタイミングで声を掛ける。


「あのー」

「うわっ」


 ふいに声を掛けられたことに驚いた白衣の人物の向こうにいたのは真白の父だった。


「おや、お久しぶりです柊君」


 俺がいることに驚く様子もなく「それじゃあ私はこれで」とあっという間に去ってしまった。


 どうしているのだろうか、と階段に消える真白の父親を見つめていたら後ろから声を掛けられる。


「君、影薄いですねぇ」

「え?」


 初対面の相手に掛ける言葉か、と一瞬思ったが、以前初対面で叩かれたことがあるのでなんとも言えない。真白のときは別に初対面というわけでもないのかな。目を合わしたことも話したこともなかったけど。


 目の前の相手は真白と同様に悪気が一切なさそうだった。にこにことした笑顔を浮かべて、どこか引っかかる。


「どうも初めまして君月と申します」

「はぁ、柊悠です」


 差し出された黒手袋をした手に応えながら、前屈みになった君月さんを思わずまじまじと見てしまう。


 灰色っぽい前髪の片方を後ろに流した端正な顔立ちの君月さんは、雑誌の表紙を飾っていたとしても違和感ないくらい格好いい。女性な気がするけれど、身長的に男性だろうか。スタイルも顔もどちらを言われても納得できてしまう程、中性的な雰囲気を纏っていた。


「悠くんはどうしてここにいるのですか?」


 悠………君?


 俺は君月さんの馴れ馴れしい態度に動揺しながらもオープンキャンパスのパンフレットのことを伝えた。


「オープンキャンパスのパンフレットにこの研究室が載っていたんですか?」

「え? はい。ここに」


 鞄から取り出したパンフレットを差し出すと君月さんは顎に手を当てながら思案する。


「ここじゃなかったですか?」

「いえいえ、合っています。合っているのですが……まぁ大丈夫でしょう。悠くんくらいの先客が丁度来ているので、同じ大学に入るのなら仲良くなれるといいですね」

「先客?」

「まぁ外で立ち話もなんですからね。まずは中に入ってから話しましょう」


 そう言って君月さんがカードキーを翳し、扉を開けた先には見覚えのある少女の姿があった。

読んでくださり、ありがとうございます。

今後ともご愛読頂けますと幸いです。


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