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放課後の時間すらなくなってしまう夏休み。勉強も読書もする気力がなくなり、自堕落な日々を送っていた。
真白のことが頭の中を駆け回るけれど、連絡先を持っているわけでもないしどうしようもない。
こうなるなら連絡先を聞いておけばよかった。でもすっかり嫌われた今、連絡をしてもブロックされるだろうなぁ。
最後に見たあの涙には一体どんな思いが込められていたのだろう。
俺が嫌いで嫌いでしょうがないから泣いていたのだろうか。放課後の時間は俺だけが大事に思っていて、真白は鬱陶しいと思っていたのだろうか。
普通に考えればそうだろうな。
自分勝手に出した答えに勝手に傷つく。
俺はベッドから起きて、学校鞄の中身を全て出してみた。手持ち無沙汰で何もすることができない中で、何かを見つけたくて漁ってみただけ。
でも学校の鞄を始め、どこにも真白との繋がりがない。殴り書きの日記帳だって結局返してもらっていないし、そもそも思い出したのも真白が学校に来なくなってからだ。真白ゆきという存在が日常のどんな場面にも頭の中に入りこんできて、でも会うことは叶わないから過去を遡ることでしか繋がることができなかった。
そうして見つけた記憶の中でも、彼女と過ごした日々を一喜一憂する。初対面での暴力を知り、無表情の秘密を知り、真白ゆきの表情を知った気でいた。でも結局は俺一人だけが浮かれていて、嫌われた。
俺と真白の関係は所詮その程度の関係だったんだろう。
思い出として残る放課後の時間だって泣きながら拒絶された今、現実のものだったかも定かではない。すると、ここ二か月の俺は一体どこに行ってしまったのだろう。
気が滅入ることばかりを考えて、机に突っ伏す。
いじめ・泣く・不登校。単語が浮かび上がれば、それらは結び付き『転校』へと変わった。
「これで終わりなのかな」
せめて謝罪くらいは許してくれないだろうか。
一つ息を大きく吐くと、机の上に出しっぱなしにしていた感情リキッドが目に付いた。
真白がいなくなってから感情リキッドを飲んでもどうしても楽しい気分になれなくて、捨てようかと考えていた。それでも捨てる決心はできないのだから、俺の心は酷く弱弱しい。
もう一度……
「悠ー」
感情リキッドに手を伸ばし、母親の声で我に返る。
俺は大きな声で返事をしてリビングへと向かう。リビングでは忙しなく朝食の準備をする母親の姿があった。
「朝ごはんは食べるの? お母さんこれから仕事だから、食べないなら冷蔵庫の中に入れて昼にでも食べときなさい」
「今食べるよ」
億劫な様子を隠さずに答えると耳の痛い話が飛んできた。
「あんたねぇ、夏休みだからってダラダラ過ごしてちゃダメよ」
「分かってるよ」
「来年受験でしょ? 勉強しなさい」
「分かってるって」
二度寝でもして、昼に食べれば良かった。選択を間違えたことを密かに後悔していると、食卓に一人いないことに気付いた。
「あれ、彩は?」
「彩は朝練に行ったわよ。それに比べてあんたは部活にも入っていないのにダラダラダラダラと……」
あぁ愚痴を言われるってこんな気分なんだ。これじゃあ嫌われても仕方ないのかもしれない。
「やることないならこれでも行ってきなさい」
俺は黙って受け取ると、軽く目を通す。それはオープンキャンパスのパンフレットだった。
大学は……偏差値めちゃめちゃ高いとこじゃん。
「俺が目指せるような大学じゃないんだけど」
「別に目指さなくても行ってみればいいじゃない。もし良かったら、そこに入ろうと勉強も頑張れるでしょ。どうせ行かなくても家で暇してるんだから行ってきなさい」
「えーでも電車代掛かるし……」
「それくらい出すから」
「オープンキャンパスって予約だって必要な気が……」
「その場で申し込みするんじゃないの?」
「うーん」
「いいから行きなさい」
オープンキャンパスって飛び入りで参加できるものなのだろうか。ネットで予約とか必要な気がする。
朝食後、調べてみると確かにオープンキャンパスは開催されていた。現地で追加申し込みを先着で受け付けるとも書いてある。
でもパンフレットに派手な文字で大々的に載っている君月研究室についてはどこにも書かれていない。
本当に飛び入り参加しても大丈夫なのだろうか。
いくら不安に感じていたとしても、既に行く選択肢しか持ちえていない。俺は家で卑屈になっているよりもマシだと身支度を始めた。
リビングに行くとテーブルの上に電車賃と「気を付けてね」と書かれたメモ用紙が置かれている。電車賃を財布に入れて玄関の鍵を閉めてから駅に向かった。
読んでくださり、ありがとうございます。
今後ともご愛読頂けますと幸いです。




