(2)
いつものように今日を無難に終えるために図書館へ行く。いつもの席でいつものように本を読む。
すると遅れて柊悠がやって来た。
柊悠は黙って前の席に座るとルーズリーフや教科書を出して授業の復習を始めた。以前まで豊富に蓄えていた愚痴も、大方話し尽くしたみたいで最近は素直に勉強に取り組むことにしたらしい。
何を話すわけでもなく、それぞれがそれぞれのやることをやる。もちろん私から声を掛けることもしないため、この空間は暗黙の了解として成立している。
一日を浪費するための時間が、不思議な勉強会へと変わっていた。時折、分からないことを尋ねられて答える程度で、以前よりもずっと良い状況だと思える。
感情が無いと突っぱねてしまったが故に、拒絶や否定をしようものなら「感情が無いのに?」と言われる。売り言葉に買い言葉、私も意固地になって大方受け入れてしまった。
だから今の感情も荒立てられない状況くらいは、受け流すことにしていた。
本来の姿を取り戻した図書館は、空調の音やペンの走る音がやけに響く。静かで何も思わずにいるには最適。
午後六時を告げる音楽放送が流れて、外を見てみると日が沈むのが遅くなったのだと気づかされた。
本から視線を外し、柊悠を見る。思えば久しぶりに人を叩いた帰り道は随分と暗かった。あの時の涙目で情けない姿を思い出して笑いそうになってしまう。
すると見られていることに気付いたのか、柊悠が顔を上げて目が合う。ふいに頭の中に階段での『好きだよ』の声が流れて、心臓が跳ねた。
私は慌てて本に視線を戻して、目を瞑る。
深呼吸を何度もして『大丈夫、大丈夫』と自分に言い聞かせて、感情の起伏を平坦なものへと変えていく。
「ねぇ真白さん」
それでも作り上げた平静は少しのことで崩れてしまう。
「ここってどうやって解くの?」
酷く無神経に質問をしてくる柊悠に私は極めて冷静に答えた。
「答え見た方が早いけど」
「まぁまぁいいじゃん。答え見てもなんでそうなるのか分かんないからさ」
私は呆れた様子で溜息を吐いて、ルーズリーフを受け取っていくらかのやり取りしながら説明した。
「おおーありがとう。真白さんの説明っていつも分かり易いね」
いつもなら流して終わる言葉も今日はなんだか気恥ずかしい。無視して再び本を開くと、無視されることに慣れている柊悠は上機嫌に新たな問題に向き直っていた。
小説を読んでくださり、ありがとうございます。
今後ともご愛読頂けますと幸いです。




