(1)
「失礼します」
私が職員室に退出を告げると早見先生はこちらを見もせず、軽く手を上げるだけだった。
進路相談として生徒一人一人を呼び出して相談に乗っているらしいのだが、早見先生に相談する生徒なんているのかな。
今だって「先生に相談したいことは?」なんて聞かれて「ありません」と答えただけであっという間に進路相談が終わってしまった。進路相談よりも職員室との行き来の方が長い気がする。
思えば私が奇行をしだしたときも、早見先生は止めようとすることさえなかった。
他の先生たちが私の名前さえ呼ばなくなっても早見先生は呼んでくる。分け隔てなくと言えば聞こえはいいが、その実生徒に興味がないのだろう。
仮に私が秘密を抱えていて、それを話したとしても親身になってくれるとは到底思えない。きっとどこまでも我関せずなんだろうな。
そっちの方が私には都合良い。
教室へ戻るためゆっくりと階段を上る。二階を過ぎる際にちらりと目をやった廊下は随分と閑散としていた。昼休みと言っても活気に満ちるのは教室の中だけ。
私は再び階段を上り、三階に着く寸前で会話が聞こえてきた。
それは柊悠と結城渚の会話だった。
「私、言ったよね」
明らかに怒気を含んだその声に私は階段を上るのに躊躇した。
「何を?」上ずった声の柊がそう聞くと結城さんは「真白ゆきに関わらない方が良いって」と言った。
ふいに私の名前が話題に挙げられて、より一層通り難くなった。
それから二人が言い争いをするのを、私はその場でじっと聞いていた。柊は常に劣勢で、声も震えていた。
私の前でペラペラと話していた柊は、自分のことを理解していたらしい。小心者らしく取り繕った姿勢は、押せば崩れてしまいそうで、不安定なように思えた。
だから私に関わるなと言ったのに。
私は人と関わりたくなかったし、クラスメイトも私と関わりたくない。それで全部上手くいっていたのに。
「あんたはこれからもあいつと関わるのかってこと」結城さんの念を押す確認に柊は肯定をした。
ごまかせばいいだけだし、明らかに肯定するべきことではないはずなのに、柊はなぜそうまでして人に構うのだろうか。
同じことを思ったのだろう結城さんが私には思いもよらなかった答えを導きだす。
「なに? あんたあいつのこと好きなの?」
は?
思わず声に出してしまいそうになって慌てて口を塞いだ。
「好きだよ」
え?
柊は間髪入れずに答えていた。
好き? 私のことを?
一体全体どこに好きになる要素があったのだろう。
私はこれ以上二人の会話を聞くのが堪え切れなくなって、階段を足早に下りた。
小説を読んでくださり、ありがとうございます。
今後ともご愛読頂けますと幸いです。




