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一度目のアラームで起きると、朝の支度をしていつもより早くに家を出た。
学校に着くと久しぶりに余裕を持って朝の階段を上った。教室に入ると、扉の前で談笑していた晴人たちに茶化される。
俺は軽く笑いながら「うるせぇ」と答えて自分の席へ向かった。
いつだって真面目な優等生の真白は、今日も変わらず本を読んでいる。
誰にも理解されないまま人に嫌われたままでいるのは、どれほど寂しいことだろうか。
拒絶され、嫌悪されながらも、その場に留まり続けることは、俺には到底耐えられないだろう。ポケットに入れた感情リキッドを強く握りしめる。
一度深呼吸をして、自分の席にリュックを下ろす。そして隣にいる真白ゆきに「おはよう」と声を掛けた。
俺が誰に何をしたのか、その意味を知っているクラスメイトたちは静まり返った。
虚を衝かれた真白は一瞬目を丸くして俺を見ると、また直ぐに本へと戻る。
雑然としていた教室。一人で本を読んでいた真白。いつもと違うのは俺だけだった。
クラスメイトたちが小声でひそひそと話しているのを横目に、自分の席に座る。周囲の視線を一身に受け止めることもできず、俺はホームルームが始まるまでの時間を机に伏せてやり過ごした。
「悠、ちょっといい?」
昼休みに入ると渚に呼び出され、屋上へ繋がる階段の踊り場まで連れていかれた。
「もしかして俺告白されるのかな?」
俺の冗談に渚は笑う。
「そんなわけないじゃん。私には晴人がいるから、悠は友達止まりだな~。そんなことよりだよ。もっと大切なこと」
「え? 結婚を前提にとか、そんなこと?」
さらに冗談を重ねる俺を無視して渚は話を続けた。
「私、言ったよね」
それだけで渚が言おうとしていることは十分に理解できた。それでも俺は気付いていないフリを続けた。
「何を?」
「真白ゆきに関わらない方が良いって」
「あーそんなことも言われた気がする」
「ふざけてんの? あんたのせいでまた暴れられたらたまったもんじゃないんだけど」
「真白にも真白の事情があったんだよ」
「人に暴力を振ってもいい事情ってなに? 事情があればクラスをめちゃくちゃにしてもいいわけ?」
「それは……確かにダメかもしれないけど」
「ていうかあいつの事情なんてどうでもいいんだけど。早い話私が聞きたいのは、あんたはこれからもあいつと関わるのかってこと」
「それは……もちろん」
渚は俺の目をじっと見据えると唐突に言った。
「なに? あんたあいつのこと好きなの?」
「好きだよ」
それが誰の口から出た言葉なのか、俺は一瞬分からずに困惑する。そして自分が言ったんだと理解して、慌てて取り繕う言葉を探した。
「と、友達としてね」
「ふーん」
「真白のことは友達としてす……その……アレだから皆みたいに無視するとか無理だよ」
「そっか。オッケー」
そう言い残して、渚は教室に戻っていった。
大きく息を吐き出し、階段に座り込む。
「嫌われるのは嫌だなぁ」
長くて短い間、膝に顔を埋めた後、俺は感情リキッドを飲んだ。
小説を読んでくださり、ありがとうございます。
今後ともご愛読頂けますと幸いです。




