表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/181

第7話 最初のレベルアップ

 初めての戦いを終え、ミズトは少しの休憩をとって川を下り始めた。

 勝利の喜びもなければ達成感もない。

 なぜ自分がこんな目に合っているのか。それがただひたすら腹立たしかった。


 気分転換に川釣りをすることにした。

 釣り経験は一切ないが、釣り道具はエデンが揃えてくれるし、コツも教えてくれる。

 先生が良かったのかビギナーズラックだったのか、魚は簡単に釣れた。

 生では食べられないので焚火(たきび)を作り焼き魚にする。もちろん火のおこし方はエデン先生がいるのでミズトでも問題なく出来た。


 エデンの能力について、新しく分かったことがあった。

 一度出したものは同じものを出せないし、出せるだけで入れることはできない。

 つまり出してもらった釣り道具は置いて行くわけにもいかず、自分で持ち歩くしかないのだ。


 必要だから釣り道具を出してもらったのだが、このまま十日以上持ち歩くと思うと、これも少しミズトを腹立たせた。

 別にエデンの仕様が悪いわけではない。魚も普通に美味しかった。


 その後の移動中、ミズトは積極的にモンスターを探すことにした。

 本音で言えば戦闘はもう懲り懲りだったのだが、エデンの助言通りレベルを上げる必要性を感じていた。


 先ほど倒したゴブリンなら何度戦っても勝てる気はするが、複数を相手にしたらどうだろうか。さらに強力なモンスターと遭遇することもありえる。

 そう考えると、身を守るためにもレベルを上げるしかないのだ。


 幸いなことに一日目は、同じフォレストゴブリンと更に弱いブルースライム、それぞれ一体ずつと遭遇しただけだったので、身の危険を感じることもなく倒すことが出来た。

 それから日が暮れるギリギリまで歩き続け、なんとかミズトの異世界一日目が終了した。


 その日の夜、河原で石の少ない平らな場所を探すと、ミズトは横になり星空を見上げた。

 日中に見た二つの月はすでに隠れていたが、代わりに都会育ちのミズトが見たこともないほど無数の星が輝いていた。


(綺麗だな……)


 じっくり夜空を見たのは久しぶりだった。

 子供の頃はよく、はるか遠い星々を想像しながら見ていたのを覚えている。


 ただ、これほどたくさんの星が見えるのは、こちらの世界が自然豊かで大気汚染とは縁遠い、澄んだ空だからなのかもしれない。

 肉体が若返り、急に視力が良くなったので、見慣れないせいでそう感じるだけなのかもしれない。

 そもそも地球ではないのだ。見える範囲に存在する星の数が違うことだって考えられる。


 いずれにせよ、大自然に触れる機会がほとんどない、くたびれた中年サラリーマンの心を癒すには、この世界は十分すぎるほど美しかった。


(ところでエデンさん。このまま寝たらモンスターに襲われて危険だったりするのか?)


【はい、就寝中にモンスターに襲われることは多く、一人で旅をする者は少ないです。一般的には複数人で行動し、夜は交代で見張りを立ててモンスターに警戒します。ただしミズトさんの場合は、危険が迫ればわたしが起こしますので、気にせずお休みいただけます】


(マジか!? 『女神の知恵袋』様様……だな)


 ミズトはそのまま眠りにつくことにした。





 翌日、ミズトはさらに積極的にモンスターを探すようになった。

 三体も倒せばレベル2に上がるだろうと思っていたのだが、クエストの報酬を足しても上がらない。

 一度目標に設定したせいか、まずはレベルが上がらないことには落ち着かなくなっていた。


(なあエデンさん。あとどのぐらいでレベルが上がるんだ?)


 二日目は、太陽が一番高くなる前に二体のモンスターをミズトは倒していた。

 にも関わらずレベルが上がることはなく、少し強い口調でエデンに問いかけた。


【申し訳ございませんが、わたしには分かりません。レベル1から2へ上昇するために必要な経験値は平均20です。しかしミズトさんはすでに30以上の経験値を獲得していますがレベル1のままです。何かしらの要因でレベルが上がりづらい可能性があります】


(エデンさんでも分からんのか……。そりゃゲームでも基本職より上級職の方が、レベルアップに必要な経験値が多かったりするけど)


 ミズトは学生時代にやり込んだゲームを思い浮かべながら、モンスターとの遭遇率が低いと感じていた川から離れ、森の奥へと足を進めた。


 結局レベルが上がったのは、三日目の夕方。何体目かも分からないフォレストゴブリンを倒し、今日はもう次で最後にしようと思った矢先だった。


 ====================

 フォレストゴブリンを倒しました。

 あなたは経験値5を獲得しました。


 レベルが2に上がりました!

 スキル『槍術』を習得しました。

 スキル『盾操作』を習得しました。

 スキル『火属性魔法』を習得しました。

 スキル『水属性魔法』を習得しました。

 スキル『風属性魔法』を習得しました。

 スキル『地属性魔法』を習得しました。

 スキル『光属性魔法』を習得しました。

 スキル『闇属性魔法』を習得しました。

 スキル『罠探知』を習得しました。

 スキル『商品鑑定』を習得しました。

 スキル『調合』を習得しました。

 スキル『川釣り』を習得しました。

 スキル『下処理』を習得しました。

 ・・・

 ====================


(表示が止まらんけど……)

 ミズトは面倒そうな顔で、流れ続けるスキル習得の文字を眺めた。


【やはりミズトさんは、全ての基礎クラスのスキルを身につけることが出来るようです】


(全ての基礎クラスねえ。ゲームだったら個性がなくて、つまらないキャラだな……。ちなみに『下処理』ってのは何のクラスのスキルなんだ?)


【『下処理』は『料理人』がレベル2で習得するスキルです】


(料理の下処理か!? はあ……なんか疲れた。今日はもういいや、川に戻るか……)


 ミズトはレベル2に上がった喜びもなく、ゲームのキャラクター作成だけで飽きた時のように、精神的な疲労が溜まっていた。

 ただ、『川釣り』を習得したおかげか、この三日間で一番大きな魚を釣り上げ、ちょっと気持ちが晴れることになった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ