第66話 異界人とシステム
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ヒロ・ヤマガミさん、ヤスノリ・クロカワさん、コウダイ・イワミさん、フミヤ・ワカスギさん、ミオ・シライさん、アカネ・イノウエさんが『グンリル城塞』を攻略しました。
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ある日の夕方、町を歩くミズトの目の前に、何の前触れもなく世界ログが表示された。
(ん? 世界ログ?)
【はい、ヒロ・ヤマガミさんらが『グンリル城塞』というダンジョンを攻略したようです。初めて異界人の誰かがそのダンジョンを攻略すると、世界ログに表示されます】
(ちょっと待て。たとえば『エシュロキア迷宮』を初めて異界人の誰かが攻略すると、世界ログとして世界中の異界人に表示されるってことか?)
【はい、以前ミズトさんが『エシュロキア迷宮』を攻略したときは、全ての異界人に世界ログとして表示されておりました】
(マジか、あれは俺だけ見えているもんだと思ってた……。ん? そういえば『エンディルヴァンド地下洞窟』を攻略したときも?)
【あの時は異界人ではないセシルさんがいましたので、世界ログにはなっていません。パーティ全員が異界人であるのが条件のようです】
(ふうん……。ちなみに他にはどういう時、世界ログになるんだ?)
【世界ログの種類としては、クランの結成や解散、宣戦布告などクランに関係するもの。ダンジョンの初攻略や公式レアクラスへのクラスチェンジなど個人業績に関係するもの。そして新システム活性化などシステムに関係するものがあります。特殊なアイテムを使用するとコメントを投稿することも可能なようです】
(新システム活性化って?)
【最近では、三年ほど前に『師弟システム』というシステムが新たに活性化されました。これは師弟のいずれかが異界人であることを条件に、師弟関係を結ぶことが出来るシステムです。新システム活性化の条件は不明ですが、新たに活性化されたときに世界ログが表示されます】
(活性化される前はなかったって意味だよな?)
【はい、その通りです】
(ゲームのアップデートみたいなもんか……。クランの結成・参加も異界人だけって言ってたよな?)
【はい、異界人だけが利用できるクランシステムは、五年前に活性化されたシステムです】
ミズトは歩きながら自分のステータス画面を表示した。
これは他人には見えず本人にしか見えないうえ、異界人しか表示させることが出来ないという。
(システムにしろこのステータスにしろ、ここの世界の人々とこれほど違いがあると、異界人に対して色々思うことがありそうだな……)
【おっしゃる通りです。異界人は様々な点で優遇されており、それを知る人々は強い妬みや不満を持ち、中には排除しようとする者たちもいます。ただ、幸いなことにほとんどの人は異界人の特性を詳しく知らないため、珍しい種族の一種ぐらいの認識のようです】
(なるほどな……。それでも、よく暴動とか起きなかったな? もし前の世界に、魔法や超能力が使える宇宙人が大量にやってきたら、とても共存できる気がしないんだけど)
【それは世界騎士団の存在が大きいと思われます】
(世界騎士団? ああ、あの野郎がいた騎士団か……)
ミズトはエンディルヴァンド大森林で出会った、世界騎士ロードのアレクサンダーを久々に思い出した。
【はい。世界騎士団はどの国にも属さず、世界全体の治安を守る騎士団と言われており、その役割の一つに異界人の取り締まりがあるのです】
(異界人の取り締まり? 異界人が犯罪でもしたら捕まえるってことか?)
【その通りです。世界最強と言われている世界騎士団が、その武力をもって異界人を取り締まるため、人々が過度に異界人を怖れる必要がないのです】
(治安維持をする最強戦力ってことか……。もし、最強の世界騎士団より強い異界人が現れたらどうなる?)
【人々は異界人に恐怖を覚え、大きな混乱に陥るかもしれません】
(…………)
エデンの言っていることはきっと正しい。
ミズトはそう感じていた。
*
「クレア様。お戯れはそろそろ終わりにして、王都に戻りませんか?」
フェアリプス王国騎士のエドガー・スモールウッドは、ため息をつくように漏らした。
「は? エドガー、あなた何を言っているの? 私はまだ何一つ成しえていないのよ? 戻るわけがありませんわ!」
クレアはエドガーに掴みかかるような勢いで言い返した。
「し、しかし、I級冒険者がやっとの王女様に出来ることなど……」
「エドガー! その呼び方は人がいなくても止めてと言ったわよね!?」
「も、申し訳ございません……」
「誰が聞いているか分からないわ、気をつけなさい! それより、私だってI級のままでいるつもりはないわ! すぐに階級を上げてみせるんだから!」
「そうは申されましても、クレア様はレベルが足りないので、いくら依頼を達成しようと……」
「そんなこと分かってるわ! だからレベルを上げるための策を考えてるの!」
「はあ……、ですがこのような掃除や人捜しのような依頼ばかりでは……」
「うるさいわね! あなたは護衛なんだから、黙ってついて来ればいいのよ! 余計な口出しはしないでちょうだい!」
「申し訳ございません……」
「あら? あんなところに可愛い子犬が。触ってもいいのかしら」
クレアは、少女と遊んでいる子犬を視界に捉えた。
「クレア様! こんなスラム街にいる犬など、不衛生でどんな病原を持っているか分かりません! 犬と遊びたければ、ぜひ王都に戻りパトラッシュとお遊びください!」
「エドガー、あなたもしつこいわ、帰らないと言っているでしょ。それにしてもあの黒い子犬は可愛いわね」
「クレア様……。待ってください、あれはただの子犬ではありません。たしか魔法使いの異界人が連れている使い魔です!」
「魔法使いの異界人? たしか、広場の端にいる男ね……」
広場の端で小さな少年の横に座っている男を見つけた。
クレアは冒険者ギルドで何度か見かけた覚えがある。
「あの男です! さあ、こんな場所に用はありません。依頼も達成したことですし、冒険者ギルドへ戻りましょう!」
「あれは何してるのかしら? 子犬を子供と遊ばせているの?」
クレアはエドガーを無視して言った。
「遊ばせる? いえ、使い魔をそんな風に使う話は聞いたことありません! ただそう見えるだけでしょう! さあ!」
「そうかしら……あれはどう見ても……」
クレアはエドガーに連れられ、渋々その場を離れた。




