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おじさんという生き物が異世界に転生し若返って無双するキモい話  作者: 埜上 純
第二章 冒険者編

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第57話 ダニエルとボニー

「やあ、君はダニエル君だったね」


「ま、ま、待ってくれ!! それ以上は何も言わないでくれ! ちょ、ちょっとこっちへ!!」


 ダニエルから先日のような生意気な態度は消え、訴えるように必死でミズトの腕を引っ張った。

 そして、ボニーとクロから距離を置くと、

「この前は俺が悪かった、この通りだ! だからこの前のことは黙っててくれ!!」

 祈るように手のひらを合わせ、ミズトへ謝罪した。


「持ち物を盗もうとしたことかい?」


「バ、バカ! だから言わないでくれって言ってるだろ!! この通りだ、頼むよ!」

 ダニエルは妹のボニーを気にしながら言った。

 どうも盗みをしようとしたことを、妹に知られたくないように見えた。


 ミズトが何て答えようか悩んでいると、ダニエルは一人で話を続けた。


「頼むよ、兄ちゃん! 妹には俺のやってることを知らないでいてほしいんだ! 俺たちには両親がいねえ! だからああするしか食ってけねえんだけど、妹にはさ、何て言うのか、いいお兄ちゃんと思っててもらいてえんだ! だから頼むよ、な? な?」

 ダニエルの眼は真剣だ。


【二人は孤児のようですね。妹思いの優しいお兄さんに、わたしには見えます】


(…………)


 ミズトはダニエルの頭を撫でて、

「もちろん何も言わないよ。だから安心して」

 とほほ笑んだ。


「そっか、ありがとよ、兄ちゃん」

 ダニエルは安心したのか、その場に座り込んで、ボニーとクロの様子に視線を送った。


 妹のボニーは本当に嬉しそうにクロと遊んでいる。

 ミズトと違って動物好きなのだろう。


「なあ兄ちゃん。あの犬って兄ちゃんのか?」

 ダニエルはボニーの様子から目を離さずに言った。


「ああ、そうだよ」


「そっか……。兄ちゃん、一つ頼みたいことがあるんだけど……」


「ん? 何だい?」


「たまにでいいから、ホントにたまにでいいから、あの犬連れて遊びに来てくれねえか? 俺、ボニーがあんなに楽しそうにしてるの、初めて見たんだ。勝手な頼みだって分かってるけど……」


【ダニエル君はとても妹思いのお兄さんですね】


(エデンさん……何度も言うな……。ああ、クソ……聞かなきゃよかった……)


 ミズトはダニエルの隣に座り、もう一度頭を撫でると、

「ああ、分かった。時間があるとき尋ねてくるよ。その代わり、あまり危険なことをしないようにね。お兄ちゃんが捕まったら妹が困るだろ?」


「うん、分かってるよ……」


 ダニエルはやりたくてやっているわけではないのだろう。

 生きるために仕方なくやっているのだ。やらないと食べていけないのだ。

 ミズトには分かっているのだが、そう言うしかなかった。


 それからボニーが遊び疲れるまで待つと、ミズト達の元へやって来た。


「お兄ちゃん、そのおじさんと知り合い?」

 ボニーがミズトを見て言う。

 兄ちゃんと言われるより、ミズトは余程しっくりくる気がした。


「そうだよ、おじさんは君のお兄ちゃんの知り合いで、この犬の飼い主さ。お兄ちゃんに頼まれて、犬を連れてきたんだ」


「そうだったの!? お兄ちゃんありがとう、大好き!!」

 ボニーがダニエルに抱きついた。


「はは……」

 ダニエルはバツが悪そうにミズトを見る。


「お兄ちゃん、もうお腹減った、帰ろうよ。今日もご飯ないの?」


「あ、ああ、そうだな……。もうちょっと我慢――――」


「ああ! ああ! ああ!」

 ミズトがダニエルの言葉を(さえぎ)って声をあげた。


「な、なんだよ兄ちゃん、急にデカい声出して?!」


「そうだ、忘れるところだった! この前頼まれてたもの渡さないとな!」

 ミズトがマジックバッグから果物を四つ取り出した。


「え?」


「ダニエル君に頼まれて採ってきたんだった! ほら、ボニーちゃんとお兄ちゃんで二つずつだ!」


「わぁー、美味しそう! お兄ちゃん、食べていいの?」

 ボニーは果物を受け取ってダニエルを見ると、ダニエルはどうしたものかとミズトを見た。


「に、兄ちゃん、いいのか?」


「ほら、ダニエル君も!」

 ミズトは無理矢理ダニエルに果物を持たせた。


「ありがとう……ありがとう……」

 ダニエルは呟きながら涙を流した。

 強がってはいるが、まだ子供なのだ。


「じゃあおじさんは帰るけど、また来るよ! 二人はどこに住んでるんだい?」


「あの青い屋根んとこだ。兄ちゃん、ありがとう」

 ダニエルは涙を袖で(ぬぐ)い、青い屋根の小屋を指差した。


「ああ、分かった。じゃあね、ボニーちゃん!」


「じゃあね、おじさん! わんわんも、じゃあね!」


「ワン!」


 ミズトは二人に手を振ると、クロを連れてスラム街を離れた。




【なかなかの善人ぶりでした】

 エデンがタイミングを計ったように言ってきた。


(は? エデンさん、たまにズレたことを言うな。その場しのぎの(ほどこ)しなんて良くないに決まってるだろ。最後まで面倒を見られるわけはないのに、一時的に誤魔化すとか逆に無責任だと思うけどな。俺は良心の呵責に耐えられなくなって渡しただけだ)


【そうでしょうか? だとしても彼らが今日の食事に助かったのは事実です。何もしないより遥かに素晴らしいことだと思います】


(どうだかな……)


 ミズトは自分でも釈然としないまま、今日は気分が乗らないので、他の依頼を明日に回して宿へ帰ることにした。

 ただ、ダニエルとの約束は守り、その日から五日に一回は、二人の元を訪れるのであった。

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