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おじさんという生き物が異世界に転生し若返って無双するキモい話  作者: 埜上 純
第一章 旅立ち編

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第30話 敗北者ミズト

 それからはミズトの中で根比べが始まった。

 何があろうとジュリオが諦めるまで無視し続けてやろうと考えた。ここまで来たら怒った方が負けのような気がしたのだ。


 ところが、何日経ってもジュリオは毎日ついてきた。

 当たり前のように朝から出待ちをし、夕食が終わるまで隣で過ごす。

 無視することを意識し続けるミズトに対し、ついて回ることを無意識にできるジュリオでは、勝敗が決するのは時間の問題であった。


【ミズトさん、どうやらあなたの負けのようです】


(は? なんで俺が負けなんだよ!)


【ミズトさんは精神的に疲労を感じ始めています。対して彼は(むし)ろ元気になっているようにさえ思えます】


(……ああ、くそ!)

 ミズトは図星をつかれ、より一層ストレスを感じた。


 それからこの状況が段々耐えられなくなると、

「ジュリオさん、他にやることはないのですか?」

 エンディルヴァンド地下洞窟で『青の魔石』を集めている最中、とうとうジュリオに話しかけた。


「アニキ!? あっしはまだアニキに舎弟にしてもらえると言ってもらえてねえんで、それまで一緒にいると決めたんす!」


「私が迷惑だと言ってもでしょうか?」


「はい、関係ねえっす! 舎弟にしてもらわねえと何にも始まらねえので!」

 ジュリオは眼を輝かせながら言った。


(なんなんだ、このクソ迷惑なやつは……)

「舎弟にすればつきまとわないんですか……?」


「もちろん舎弟にしてもらえればアニキのために何でもしますんで、半分ぐらいしか一緒にいねえっす!」


(半分…………)

「舎弟にしなかったらどうされるんですか?」


「永遠に一緒にいやす!」


(永遠…………ああ、もう!!)

「分かりました。舎弟ということでよいので別行動にしてもらっていいですか? 普段は薬草や『青の魔石』を取るだけで、手伝ってもらう必要はないですので」


「アニキ、いいんすか!? マジでありがとうございます! 今日からアニキと呼ばせてもらいます!!」


(いや、ずうぅぅぅぅぅっと呼んでるけど……)


「では、アニキ、明日から薬草や『青の魔石』を集めてらっしゃる間、あっしはアニキのために別で稼ぐことにしますんで!」


「私のために稼ぐ必要はありませんが、ぜひ別行動お願いします」


「ですがアニキ。ここの地下三階程度じゃ、アニキはもうレベル上がんないですぜ? アニキほどになると、せめて地下七階より下にいかねえと」


【彼の言う通りです。ミズトさんがレベルを上げるために、エンディルヴァンド地下洞窟の地下七階以降へ行くことを推奨します】

 エデンが割り込んできた。


(なんでレベル5でこんなに上がりづらいのか分からんけど、なんかもういいや。これ以上強くなる必要なくないか?)


【たしかにドゥーラの町ではミズトさんが最強になり、困ることはございません。ですが今の実力程度では世界騎士ロードのアレクサンダーさんに到底及びません】


(あいつか……。あの野郎は今思い出してもムカつくが、あれって世界最強レベルなんじゃないのか?)


【はい、彼は世界最強の騎士と言われています】


(てことは、あいつに勝つには世界最強になるってことだぞ? そういうのなりたくもないし、もう会うこともねえよ、きっと)


【ミズトさんが本気でそう思うのであれば問題ございません】


(……そうだ、思い出した! そうそう、スローライフだ! 俺が目指してるのはスローライフなんだよ! もう冒険とか興味ある歳でもないし、戦いのない平穏な生活が俺の希望だ!)


【かしこまりました。わたしはミズトさんがスローライフを手に入れられるよう、一層協力いたします】


(ああ、頼むよ……)

 ミズトはたった今、自分の目的が見えたはずなのに、なんだかスッキリしないと感じていた。


 *


 ドゥーラの町四大勢力の一角『狂った野獣』が、『凶暴戦士』の舎弟になった噂はあっという間に広まった。


「ボス、どうします!? あのガキ、ジュリオを取り込みやがりました!」

 『マックス一家』の溜まり場には、ボスのマックスを始めメンバーが集まっていた。


「俺様がちょっと町を離れている隙に、クソガキがあの野獣を手なずけてるとはな……。いいか、てめえら、当面は大人しくしておけ。あの野獣に火がつくと面倒だ。ま、そのうち俺様がなんで町を離れていたか、思い知ることになるだろうがな」


 *


 『荒野の牙』は、冒険者ギルド内の共有スペースに集まっていた。

「なあヴィクター、あの噂聞いたか?」

「ミズト君とジュリオが仲間になった話だろ? もちろんだ」


「まさかあの狂った野獣が、あんな若者の下につくとはね」

「そうだな。あれは本能のままに動いているから、俺たちとは違った何かを感じとったんだろうさ。何にせよ、『狂った野獣』と『凶暴戦士』が一つにまとまり、これで三大勢力に戻ったわけだ。マックス一家も簡単には手を出せなくなり、町の均衡が保たれたんだ。ミズト君には感謝しないとな」


 *


 『マックス一家』や『荒野の牙』だけではなく、ミズトの知らないところでミズトの評価は大きく変わっていった。

 『凶暴戦士』と言っても、ここ最近暴れている相手は悪名高い『マックス一家』とだけ。

 町を歩けば女子供や年寄りを救って回り、しまいには町で最も恐れられていた『狂った野獣』を大人しくさせてしまったのだ。


 そもそもこの町に来てから冒険者以外の普通の町民とは一度も争っていない。

 彼らからすれば『荒野の牙』と同様、いやそれ以上に頼りになる存在になっていた。


 しかし当の本人はそんなことなどつゆ知らず、『凶暴戦士』とあだ名されるほど暴れた自覚も多少あり、ならず者に分類されている自分に少し反省しだしていたのだった。

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