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おじさんという生き物が異世界に転生し若返って無双するキモい話  作者: 埜上 純
第七章 千年王国交差編

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第236話 到着前夜

 二日後、ミズトたちが村を去るため、村人たちが馬車の前に集まっていた。


「いや、困っているなら助けるのは当然のことだ。な、ミズト!」

 皆からの感謝の言葉を受け、ウィルがミズトに振った。


「あ、いえ、はい……。お力になれて良かったです」


「そう言っていただけて光栄でございます。荒れた田畑や建物はほとんど元通りになり、食事まで振る舞っていただき、子供たちは笑顔を取り戻すことができました。そして、まさか村の守り人まで作ってくださるとは、どれほど感謝すれば良いのか」

 集まった村人たちは皆で感謝の言葉を次々と口にする。


「いえ、ウィルさんも言っていた通り、冒険者は人を助けるのが仕事ですので、気になさらずに」


「そうは参りません! 我々は英雄ミズト様を称え、永久に感謝の気持ちを伝えていきたいと思います」


「はは……」

(まいったな……)


【それほどミズトさんの行動に感謝をしているということです】

 本当はミズトも理解していることを、エデンが綴った。


 それから馬車が去ると、村人たちはそれが見えなくなるまで手を振り続けた。

 それに応えるように、ミズトとウィルも姿が見えなくなるまで手を振り返した。


 村人たちの見送る笑顔は、ミズトのとった行動を肯定している。それは否定されるよりよほど良いことだ、とミズトは無意識に感じていた。


(それにしても、ゴーレムに感情はないよな……?)

 ミズトは、村人に混ざって手を振っているストーンゴーレムに違和感を覚えた。


【もちろんゴーレムに感情はございません。ただ村人たちが心より行いたいと思っている行動を、真似しているだけになります】

 エデンが解説した。


 ミズトは、何の武力も持たない村のために、周辺にある岩でストーンゴーレムを生成していた。

 高価な鉱石ではなく、ただの岩で作ったゴーレムがどれほど役に立つか分からないが、このまま放っておくのも気が引けたのだ。


 しかし、今のミズトが全力で魔力を注いだゴーレム。

 それは半永久的に稼働し、どんな外敵からも村人を守るものだった。


 名もない小さな村が世界一安全な村になったことを、ミズトが理解することはなかった。その村は後に、災厄さえも退ける『守護ゴーレムの聖域』として伝説に語り継がれることになるのだが……それはまた別の話である。




 それから何日かの行程を経て、千年王国ハイデルンを目前に控えた、最後の夜営。


 少し離れた場所では、召喚で呼び寄せた料理用ゴーレムが無機質に鍋をかき混ぜている。

 ミズトの足元では、いつものようにクロが幸せそうに丸まっていた。

 御者が手慣れた手つきでおこした焚き火。パチパチとはぜる薪の音を聞きながら、ミズトは隣で火を見つめるウィルの横顔を盗み見た。


(…………)


 ウィルのそばにいるだけで、ステータスを見るまでもなく、世界で八人目の到達者としての高い能力が自然と伝わってくる。

 その力は努力で手に入れたものではない。彼が求めていたのかどうかも分からない。


 それでもウィルは、ミズトと共に行動していたというだけで、一瞬にしてレベル98に至ってしまったのだ。

 そうなった原因に気づいているのか、良かったと思っているのか、何も言ってこないウィルに、ミズトはずっと心に引っかかるものがあった。


「今夜はルナが一段と明るいな」

 ウィルが夜空を見上げて言った。


 ミズトも見上げると、雲一つない夜空に浮かんだ二つの月が目に入ってきた。

 一回り小さい方は、ここが異世界であることを改めて印象づけるように、怪しい赤紫色の光を放っている。

 一方ウィルがルナと呼んだ月は、前の世界で見慣れたものと同じように白く、今夜はとくに神秘的に輝いていた。


「はい、満月のせいか、いつもより大きく見えますね」

 ミズトはウィルに答えた。


 帝都を出てから二か月。ウィルとの旅路は終わりを告げようとしていた。

 御者が言うには、明日の昼前には目的地ハイデルンへ到着するようだ。

 ミズトにとって長い旅ではあったが、想像していたより退屈な思いも、居心地の悪い思いもすることはなかった。


 やりたくもない人助けに散々付き合わされたはずなのだが、終わってみると案外慣れてしまうもので、あっという間に二か月が過ぎていた。

 今夜はその二か月がミズトを感傷的にしてしまったのか、ミズトはずっと出せなかった言葉を口にしようとしていた。


「ところでウィルさん……」


「ん? どうした、ミズト、改まって」


 努めて日常的なトーンで言ったつもりが、ウィルには神妙な空気が届いていた。


「ウィルさんは……急に強くなったことを、どう思っているのでしょうか……?」


 ミズトは、自分でも驚くほど曖昧に聞いてしまった。

 しかしウィルは、ミズトの意図を確認することもなく、しばらく焚火を眺めてから、穏やかに答えた。


「これほどの力を手にすることが、良い事なのか悪い事なのか俺には分からん。だが、この力で守れなかったものが守れるようになったのなら、今までより多くのものを守れるようになったのなら、俺は『到達者』となった自分を肯定する」


 ウィルらしい答えだった。

 いや、ウィルなら、聞くまでもなく当然と言えた。

 それでもミズトは、その答えを聞くことができ、胸のつっかえが半分消えていた。


「……」

 しかし、残りの半分の疑問――――なぜ強くなったのか、という問いを口にすることはできなかった。

 そう問うことを、ウィルが拒否しているようにも感じたのだ。


「ミズトは、力を手に入れて悔やんでいるのか?」

 ミズトの次の言葉を待つことなく、逆にウィルが聞いてきた。


 ミズトは、この世界の歴史を簡単に変えられる過剰な力を手に入れていた。

 力づくで変えられるものなら、力づくで手に入るものなら、ミズトなら簡単になすことが出来る。


 そんなチートと呼ばれる力を欲した覚えはない。その力のせいで色々なことに巻き込まれてきたとも思っている。


 それでも、ウィルの問いに即座に返す回答を持っていなかった。

 ウィルの言うとおり、力とは何かを守るものであるならば、もし力を手に入れていなかったら、ミズトが守ってきたものが守れなかったことになるのだ。

 救えるものが救えなかった方が、ミズトは悔やむに決まっていた。


「すまん、聞くまでもないことだったな」

 ウィルは笑顔でミズトの肩に手を置いた。

 その手の厚みに、強張っていた肩の力が抜けたような気がした。


 ちょうどその時、ゴーレムが大鍋を持ってきた。

 途端、じっくりと煮込まれた肉と野草の、食欲をそそる濃厚な香りが夜の冷気に弾ける。


「今夜もゴーレムの飯は美味そうですね!」

 タイミングを見計らったように、御者が馬車から現れた。


 明日の昼前には、千年王国ハイデルン。

 そこでミズトたちに何が待ち受けているのか。そんなことなど気にすることもなく、ミズトは差し出された木皿を受け取り、湯気の向こうに揺れる二つの月を見上げていた。

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― 新着の感想 ―
力があれば守れなかったものも守れる可能性はあるけれど 過ぎたる力は争いの元 相手がねちっこくいやらしい搦手使ってくるならいくら強い単体ユニットいたところで全部は守りきれないし、争いが力を持った個のせい…
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