第234話 生じる責任
それから、ミズトとウィルの乗る馬車を先頭にして、『トゥルガイ』の騎馬隊が列を作った。
馬車はミズトの指示で進み、起伏のある地で止まった。
「あちらの岩陰あたりに、大勢の盗賊がいます。捕まった子供のような人たちもいるようです」
ミズトは止まった位置からは視認できない部分を指して言った。
百人以上の悪意ある集団がいるようだ。
「そうか、まさかトゥル・エル湖跡にアジトを構えていたとはな」
ケイリアスがミズトに答えた。
ミズトたちが辿り着いたのは、かつてトゥル・エル湖と呼ばれる湖があった場所。
今は水が枯れ、広大な平地には珍しい起伏の大きい土地でしかなかった。
「案内、感謝する、ミズトよ。あとは我々『トゥルガイ』の問題だ。おぬしたちは関わる必要のない戦いだ」
「待て、ケイリアス。相手が盗賊団とはいえ、全員殺すつもりなのか?」
ウィルがケイリアスに訊いた。
「当然だ。向こうも我々を殺すつもりで戦うだろう。こちらもそうしない理由はない」
その通りだ。
相手に殺意がある限り、手加減をする必要はない。
ミズトのいた日本でさえ、正当防衛という言葉があるのだ。
しかし、ウィルの考えは違ったようだ。
「ケイリアス、先ほど言ったように、お前たちを非難するつもりも否定するつもりもない。だが、俺も好きなようにやらせてもらおう。俺の目の前で、お前たちや捕まった子供はもちろん、盗賊を殺すことも俺は許容せん」
「…………好きにするんだな。だが、こちらも先ほど言ったように、邪魔だけはするな」
「ああ、子供の救出の邪魔だけはせん。――――借りるぞ!!」
ウィルはそう言って、突然目の前の馬に飛び乗って、駆けだした。
「ウィル!?」
突然の出来事に、誰もが反応が遅れた。
しかし、元王国騎士だけあってか、ウィルはその間に馬を巧みに操作し、あっという間に盗賊団のアジトに近づいていく。
「く、くそっ! あれほど邪魔だけはするなと! 皆の者、追えぇ!!」
ケイリアスの合図と共に、『トゥルガイ』の男たちは馬に乗りウィルの後を追った。
「クゥゥゥン」
一人取り残される形になったミズトに、クロが憐れむような声を出して見上げた。
(…………)
【ご心配には及びません。今のウィルさんは、世界で八人しかいない『到達者』です】
エデンがミズトの心を読んだかのように告げた。
(いや、心配してるわけじゃないが……)
【ご覧ください、決着まで約三十秒です】
(?)
エデンがそう言って間もなく、ウィルたちに気づいた盗賊団が現れた。
ウィルはそのまま盗賊団に向かって駆け続けると、
「はぁっ!!」
と気合を込めた声をあげた。
すると、空気が震え、物理的な衝撃波でも走ったかのように、盗賊たちはその場でバタバタと倒れていった。
(………………どゆこと?)
戦士系のウィルが、スタンやパラライズの魔法を使ったとは思えない。
実際、魔力を一つも感じなかった。
【今のは戦士系スキル『威圧』を使用しました。『威圧』は、強力なモンスター相手に使用すると、敵意を自分へ向けることができ、弱いモンスター相手の場合は、恐怖で動けなくさせることができます。『到達者』であるウィルさんが使用したため、すべての盗賊が恐怖で動けなくなり無力化しました】
(すべてって……)
ミズトは、動けそうな気配のある盗賊が、一人も残っていないことを確認した。
「どうだ、ケイリアスよ! これでも戦う必要あると言うのか?!」
ウィルが声を上げた。
「…………」
ケイリアスは黙ったままウィルに馬を寄せ、周囲を確認する。
他の『トゥルガイ』の男たちも、倒れている盗賊の様子を見ながら、辺りをゆっくりと回りだす。
「族長、動ける奴は、一人もいないようです……」
少しすると、一人の『トゥルガイ』がケイリアスへそう報告した。
「ウィルよ、これはすべておぬしの仕業か?」
「ああ、そういうことだ」
ケイリアスは一瞬だけ呆然とすると、
「くっくっく…………はっはっは……あーはははははっ!! 想像以上に愉快な奴だ!! まさかこれほどのものとはな!! おぬしの勝ちだ、ウィルよ!! こいつらは殺さず、全員連邦にでも引き渡そう!!」
「そうか、すまんな」
ウィルが答えると、二人は握手を交わした。
それから盗賊たちを全員拘束し、盗賊団の持っていた馬車に詰め込んで、『トゥルガイ』の何人かが彼らを連行した。
連れ去られた子供も、他の民族やどこかの村からさらわれてきた子供と一緒に、無事救出された。
そして、ミズトたちはケイリアスたちと一緒に一度集落に戻ると、改めて感謝を受けた。
「ウィルよ、ミズトよ。二人には世話になってしまったな」
ケイリアスは二人に言った。
「何を言ってるんだ、最初に言っただろ? 俺たちは冒険者だ。困っている人々を助けるのが仕事だとな!」
ウィルが笑顔で答えた。
「はは、そうだったな! 力とは、何かを守るためにあるものだ。私の力は『トゥルガイ』を守るためにある。おぬしたちほどの力があれば、きっと様々な人たちを助け、もっと大きなものを守ることができるのだろうな!」
「ああ、俺たちも、そうであってほしいと思ってる! そのための力だからな!」
「それを聞けて安心したぞ。世の中には、何かを守るためではなく、何かを奪うために力を使う者がいる。もっと許されんことに、持っている力を使わない者さえいる。おぬしたちほどの力を持った者が、そうでないことに感謝する!」
『トゥルガイ』の族長ケイリアスは笑顔で言った。
そんな二人を見ていたミズトは、ウィルとケイリアスが抱く信念は、決して間違いではないと感じていた。
しかし、力を持つことは、その大きさに比例して相応の責任が生じることも理解していた。ミズトの持つ過大な力は、それを行使しないことも、ある意味責任を果たしているのではないのか、と考えていた。
ただ、それが単なる逃げなのか、それとも賢明な自制なのか、ミズトの中で答えはまだ出そうになかった。




