第232話 風詠みの巫女
宴に出された食事は穀物や野菜を素材とした料理が中心で、ミズトの想像を裏切り美味しいものだった。
お酒を断り、代わりに出された果実水も、ミズトの予想の上をいっている。
どれも素材を生かしたものばかりで、逆に都会では味わえない感動をミズトに与えていた。
ミズトはゴーレムにこれを覚えさせられないものかと思いながら、宴の様子を見ていた。
一方ウィルは、族長のケイリアスと意気投合したようだ。
年齢も、本来のレベルも近い二人。元王国騎士の隊長なら、立場も近いと言っていいだろう。
責任感も正義感も強い二人は、打ち解け合うのに、時間は必要なかった。
無二の親友のように、楽しそうに語り合っている。
他の者たちも、宴というだけあって楽しそうに酒を飲み、語り合っている。
そして、有難いことにミズトは誰にも話しかけられず、ここまで一人静かに食事をすることができていた。
しかし、その平穏に一人の少女が割り込んできた。
「あなたはどうしたいのですか?」
喧騒が突然遠のき、少女の周りだけ風が止まったかのような静寂が訪れた。
「…………はい?」
あまりにも唐突な質問に、ミズトは幼稚な声を出してしまった。
話しかけてきたのは、十歳ぐらいの少女だ。
服装は、他の者たちと同系統の装飾をされているが、白を多く使っているせいか、少し格式が高い印象を受ける。
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メイリン LV4
種族 :人間
加護 :風の精霊
クラス:風詠みの巫女(熟練度8)
ステータス
筋力 :J
生命力:I
知力 :H(+C)
精神力:H(+C)
敏捷性:J
器用さ:I
成長力:E
存在力:C
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(風詠みの……巫女?)
「えっと……お嬢さん、こんにちは」
ミズトは少女に愛想笑いを浮かべた。
「あなたは、この新しい自分の物語を、どうしたいのですか?」
少女は、幼さを感じさせない表情で、再び質問をした。
「自分の物語を……どうしたいのですか……?」
ミズトは口にした単語に、一瞬胸が疼いた気がした。
「あなたの紡ぐ物語は、きっと世界の人々を幸せにし、あなた自身も幸せにするでしょう。どうかそれを、お忘れなく」
質問を繰り返すことしかできないミズトを無視して、少女は深く頭を下げた。
「巫女から話しかけるとは珍しいな。おぬしは余程の運命を持った人物なのだろう」
族長ケイリアスがウィルを連れてやってきた。
「よ、ミズト! 思ったより飯も酒も旨いとこのようだな!」
(酒は飲んでねえから)
「えっと……あれ……?」
気づくと、少女の姿がなかった。
「はは、今のは風詠みの巫女。風の精霊の声を聞き、我ら民族の進むべき道を導く巫女だ。それにしても、我ら民族以外に関する声でも聞こえたのか。まさか巫女から話しかけることがあるとはな」
ケイリアスは、キョロキョロと周囲を見回すミズトに言った。
「ま、ミズトだからな! 大きな運命を持っているのは間違いないだろう! はははははっ!!」
だいぶ酒が入っているのか、ウィルはいつもより上機嫌だ。
別に、巫女に話しかけられたといっても、内容が抽象的すぎて会話としては成立していない。
如何様にも受け止められる言葉を言われ、助言になるのかは解釈次第なのではないかと感じていた。
ミズトは何を言われたか酔った二人から色々聞かれたが、適当に誤魔化しながら、残りの宴の時間を過ごしていた。
それから、宴が終わりに近づいたころ、『トゥルガイ』の一人と思われる男が、慌ててケイリアスの元にやってきた。
「族長、たいへんです! リースんとこの子供が『ザルカン』の奴らに連れ去られました!」
「なんだと!! 奴らめ、まだ懲りずにこのエリアにいたか……。よし、馬を集めろ! すぐに出るぞ!!」
「待て、ケイリアス! 今の話、子供が連れ去られたとはどういうことだ!? ザルカンとは何だ!?」
立ち去ろうとするケイリアスを、ウィルが引き止めて聞いた。
「聞いての通りだ、ウィルよ。リースの子供が『ザルカン』の奴らにさらわれたようだ。『ザルカン』とは、この辺を根城にしている盗賊団だ」
「盗賊団!?」
「時間がない。話は後だ」
「待て! そういうことなら俺たちも行くぞ! 連れて行ってくれ!」
ウィルは再びケイリアスを引き止めた。
「……申し出は有難いが、これは我ら『トゥルガイ』の問題だ。自分たちの問題は自分たちで解決してみせる。ここで他人の手を借りるようでは、『トゥルガイ』は生き抜くことはできないのでな」
「ダメだ! 俺らも行くぞ! もうお前たち『トゥルガイ』は友人だ! ここで見過ごすなんて、俺たちにできるわけないだろう!!」
(俺たちね……)
ウィルとケイリアスは、まるで今から戦いだすのかと思うほど、真剣な目で睨みあっていた。
しかしそれは数秒ほどで終わると、ケイリアスが先に目を逸らした。
「時間がないと言っただろう。好きにするがいい……。ただし、邪魔だけはするな」
「もちろんだ! 行くぞ、ミズト!」
先ほどまでの緩んだ表情はウィルから消えている。
ミズトとウィルはすぐに馬車に戻ると、『トゥルガイ』の騎馬隊に続いた。




