第226話 教団の方針
「双方そこまでだ。神前である。わきまえていただこう」
中央に座る白いローブを纏った老人が言った。
「神前なんて関係あるか! てめえらブロン組は何の役にも立たねえんだ。口を挟んでくるんじゃねえよ!」
「その通りだ! ブロンは古代兵器の研究だけしていればいい! 我々に口を出さないでいただきたい!」
紅いローブの男と黒い鎧の騎士が揃って非難した。
「無礼者が! 枢機卿に何て口の利き方を!」
見かねたように、向かって左側に座っていた白いローブの男が立ち上がった。
「だから、枢機卿とかも知るか! 俺は信者じゃねえんだ。うちのボスの命令以外は、知ったこっちゃねえんだよ!!」
「ならず者のルージュが! なんでこんな奴らが我ら教団に……。だから反対なんだ、こんな――――」
「もうよい、彼らに求めても仕方なかろう。それよりも本題だ。ルージュの方々も、ノワールの方々も、話を進めてよろしいか?」
白いローブを纏った枢機卿と呼ばれた老人は、横に座る配下を諫めると、冷静に言った。
「すまんな、ブロン卿よ。本題を進めていただこう」
奥に座っている紅いローブの男が言った。
他の二人と同じようにフードを深く被ってはいるが、壮年の男性なのは分かる。
「……」
その向かいに座る黒い鎧の騎士は、黙って頷いた。
こちらも四十を過ぎた壮年男性で、種族は人間だ。
「ルージュ卿、ノワール卿、ご了承感謝いたします。では、本題である八人目の『到達者』について共有しましょう。まずは人物ですが、冒険者であることに間違いないようですな。しかしギルドが巧妙に隠し、人物を特定することはできません。ただし、魔法使いや支援系クラスではなく、近接戦闘系クラスなのは確実のようです」
ブロン卿と呼ばれた白いローブの老人は、ルージュ卿、ノワール卿と呼ぶ二人に向かって説明した。
どちらもそれぞれの陣営の代表者のようだ。
ブロン卿は話を続けた。
「続いて『洗礼の儀』についてですが、やはり千年王国で執り行われるようです。かの地は中立国ですが、世界騎士団のお膝元。『洗礼の儀』を行うには打ってつけなのでしょう。『空の支配者』の力が及びやすいというのもあると思われますな」
「新しい『到達者』が冒険者ってんなら、ヴァレリアーノと同じようなもんじゃねえか。気にする必要はなさそうだな」
ショートソードを携えている紅いローブの男が言った。
「それがそうもいかぬのだ」
ブロン卿は諫めるように言った。
「世界騎士ロードが行う『洗礼の儀』がどのような効果を持つか分かっておらん。強制的に世界騎士団の勢力に取り込む誓約が含まれているかもしれぬ。我々が唯一警戒すべき世界騎士団に二人目の『到達者』が加わるとなると、今後の計画に影響がありかねんのだ」
「なるほどな。で、教団の方針としてはどうすんだ?」
ブロン卿は紅いローブの男の言葉を受けると、背後のカーテンへ頭を下げてから、
「教皇様のご方針が変わることはない。そのためその『到達者』を見極めるために、どちらかには『洗礼の儀』が行われる千年王国ハイデルンへ向かっていただこう。そして八人目の『到達者』の人物像次第では、その場で殺害してもらいます」
「『到達者』の殺害? ははは、そいつはクソ面白え仕事じゃねえか! 暗殺ならこの俺の十八番だがよ……アレクサンダーがいるんだろ? 今回ルージュ組はパスだ。あれにだけは見つかりたくねえからな!」
紅いローブの男は、再び両足をテーブルの上に乗せた。
「…………まあよかろう。ではノワール側はいかがかな?」
「ルージュができない仕事は、我々黒騎士団がやるに決まっているだろう! 任せてもらおうか! そもそも千年王国ハイデルンは我々の拠点でもあるのだしな!」
奥から三番目に座っている黒い鎧の男は、立ち上がって言った。
「そういえばあそこはノワールの拠点でしたな。さすがのノワール卿でも、アレクサンダー相手ではどうなるか分かりませぬ。お気をつけて対処ください」
「……」
一番奥に座っていた黒い鎧の男は、何も言わずに立ち上がると、そのまま二人の仲間を連れて退室していった。
「ケッ、相変わらず黒騎士ロード様は陰気くせえな! ま、たしかにあのおっさんなら、新米の『到達者』程度どうにでもなるだろうがよ」
紅いローブの男は両手を頭の後ろで組みながら言った。
「ではルージュは今回傍観ということでよろしいか?」
「いやいや、待てよブロンの爺さん。何もしねえとは言ってねえだろ?」
「ほお、では動くとな?」
ブロン卿は、紅いローブの男に聞き返した。
「俺らは裏方だ。裏方なりにやることがあるのさ、な?」
「ああ、その通りだ」
腰にショートソードを携えた紅いローブの男に話を振られ、背中に巨大な弓を背負う紅いローブの男が答えた。
「ならよかろう。これ以上計画の遅れは許されん。双方に、イアの加護があらんことを」
ブロン卿がそう締めくくると、同じ白いローブを纏った左右にいる男たちが復唱した。




