第225話 会えるかもしれないあいつ
(もしかして俺も受けさせられそうだったってことか?)
【はい、ミズトさんは『到達者』ではないかと冒険者ギルドに疑われています】
エデンがミズトに回答した。
(偽装ステータスがかけ離れているのも考えものってことか……)
「大まかな事情は理解しました。それで、私が呼ばれたのはどのような理由でしょうか?」
自分には結局関係ないという説明をされた理解なので、ミズトはここにいる理由を尋ねた。
「なんだ、ミズト。そんなの同じパーティメンバーだからに決まっているだろ」
ウィルが少し驚いた顔で言った。
(おいおい……まさかパーティメンバーとして、俺もその千年王国に同行するって言っているのか……?)
【その通りです。先日の冒険者昇格試験の護衛依頼を受けた際、ミズトさんとウィルさんはパーティとして冒険者ギルドに登録されています。冒険者がパーティで行動するのは当然のことです】
「ミズトは帝都を離れるのが嫌かもしれないが、『洗礼の儀』を拒否するわけにもいかないだろ?」
ウィルはミズトが同行することを当たり前のように思っているようだ。
いつものミズトなら面倒なので即座に断るところだったが、今は躊躇していた。
誰かが困っているわけでも、何かを救うわけでもない。
儀式を受けるだけならウィル一人で行けば済むことなのだが、問題は、彼が行くことになった原因だ。
ウィルは望んで『到達者』になったわけではない。
本人が気づいているか分からないが、ミズトに巻き込まれて『到達者』になったのだ。
巻き込まれた側のウィルが行くのに、巻き込んだ側のミズトが行かないのは、さすがに気が咎めていた。
さらには、最近の停滞した生活状況もあった。
元々はスローライフという適当に思いついた目標で生きてきたが、何もやることがない現状では目標が破綻している。
このまま無為に生き続けることに、ミズト自身、限界を感じ始めていた。
かといって冒険者として活躍しようとは思わないし、これ以上の金儲けも考えていない。
この力を使って積極的に人助けをしようとも思わず、強すぎる力でこの世界の歴史に介入もしたくない。
それでも、何かしらの目的や目標をもって生きるべきだという気持ちは、少しずつ芽生えてきているのだ。
『面倒だから』『行きたくないから』という理由だけで、ウィルの話を拒否することは、いつになく戸惑いを覚えていた。
「ミズト、お前が儀式を受けるわけじゃないんだ。ただの観光だと思えばいい。それにな、もしかしたらあの世界騎士ロードに会えるかもしれないんだぞ?」
「世界騎士ロードにですか!?」
ミズトは思わず声を上げた。
「あ、ああ。『洗礼の儀』ってのは世界騎士ロードのアレクサンダー・ストームハートの御前で行う儀式だ。世界最強の騎士を拝めるなんて、またとない機会だと思わないか?」
(は……はは……あははははははっ! そうか! あの野郎が来るのか!! あの野郎に会えるのか!!)
「行きましょう! ウィルさんは何を言いたいのか分かりませんが、『到達者』になったなら洗礼の儀を受けるのは当然です! パーティメンバーの私も同行する! そんなの決まっているじゃないですか!!」
「そ、そうか。すまない、お前が渋っているのかと思ったが、そう言ってくれるなら助かった……」
突然豹変して声を張り上げたミズトに、ウィルは目を丸くしながら言った。
「ホホッ、どうやってミズト殿を説得しようか悩んでいましたが、ただの杞憂でしたな」
「何を言っているのですか、ギルドマスター! 私が行かないわけないではないですか! はははは!」
ミズトはなれなれしくブルクハルトの腕をポンポンと叩き、満面の笑みを浮かべた。
そのあまりに不自然な上機嫌ぶりに、周囲の三人はただ困惑するしかなかった。
*
その大きな部屋は、どこかの王室の如き華美な装飾に彩られていた。部屋の奥の分厚いカーテンの向こう側には、玉座に鎮座する誰かの影がうっすらと見える。
部屋の中央には重厚な四角いテーブルが置かれ、左右向かい合うように紅いローブを纏った三人と、黒い鎧の騎士三人が座っていた。さらに白いローブを纏った三人が、カーテンを背にしてテーブルの奥側に座っている。
「それにしてもよ、ノワール組は古代兵器を起動させるだけの、簡単なお仕事もできねえのか?!」
奥から二番目に座っている紅いローブの男が、無作法に両脚をテーブルの上に放り出した。腰には二本のショートソードが揺れている。
「なんだ貴様! ルージュは我々ノワールに文句でもあると言うのか!? そもそも貴様らルージュが、東側に何度か出没しているという証言もある! 貴様らこそ我々の邪魔をしてる暇があったら、西側の仕事をしっかりやらんか!!」
奥から三番目に座る黒い鎧の騎士が激昂し、紅いローブの男に怒鳴った。
「ふざけんな。俺らルージュ組の仕事は、てめえらノワール組と違って完璧よぉ。スタンピードを発生させる古代兵器をただ起動するだけなのに、どうやったら失敗するんだ、てめえらは?」
「魔王軍の介入があったのだ、不可抗力だろうが! だいたい魔王軍の対処は西側で何とかする話だ! どこが完璧だというのだ!」
「あ? 魔王軍本体はこっちで抑えてんだろうが! おこぼれぐらい、てめらで何とかしてみろや、雑魚黒騎士が!!」
紅いローブの男はテーブルから脚を降ろすと、身を乗り出しながらそう言った。
「なんだと貴様ぁ! 我ら黒騎士団を愚弄するかぁ!!」
黒い鎧の騎士は腰の剣に手を置いて立ち上がった。




