第221話 取り戻した笑顔
帝都に戻ると、ミズトとウィルは『裂空の槍』『幻影の方舟』と合流し、冒険者ギルドへ訪れて完了報告を済ませた。
併せて日本卍会のダンジョン占拠や、魔王軍と黒いローブの集団の出現についても報告したが、既に他の冒険者から伝わっており、とくに魔王軍については冒険者ギルドから帝国へ報告がいっているようだった。
なお、帝国の歴史が大きく変わる可能性さえあったスタンピードの発生については、ミズトたち以外気づいたものはなく、冒険者ギルドも帝国も知る由もなかった。
ただし、ミズトのメテオ改め全力ストーンバレットによる発光は帝都民すべてが目にすることになり、帝国軍が調査に乗り出したという話を聞いた。
シュンタたち三人は、ミズトとウィルと別れた後、先に屋敷に戻りミズトの帰りを待っていた。
ミズトが冒険者ギルドから戻ると、シュンタたちに二階の一番大きい部屋に通された。
「……」
「……」
「……」
「……」
六人用のテーブルに座ると、しばしのあいだ沈黙が流れた。
ミズトは向かいに座る三人の視線に戸惑いながらも、彼らの辛い経験を考えてしまい、つまらない冗談を言って場を崩すことも、席を立つこともできないでいた。
中央に座っているのはシュンタ・ナカガワ。ミズトははっきり聞いていなかったが、クラン『オヤジ狩り』の元クランマスターで、四クラン連合のリーダー的存在だった。
シュンタの左手に座っているのは、ナツキ・ホソムラ。明るく染めた長い髪をした二十歳ぐらいの女性で、クラン『戦慄の乙女』の元クランマスター。よくクロとじゃれていたギャルだ。
シュンタの右手は、トモハル・カトウ。彼も二十歳ぐらいで、クラン『北海道フェア』の元クランマスター。ミズトが初めてこの屋敷を訪れた際、玄関で迎えてくれたときに話したぐらいで、それ以降は口をきいた記憶はなかった。
「え、えっと……皆さん戻られましたので、この屋敷の所有権はお返しします――――」
「ミズト君!」
ミズトが何とか話題を見つけて口を開くと、ミズトの言葉を制止するようにシュンタが声を張った。
「え、えっと……」
「まずは、改めてだけど、俺らを救出してくれてありがとう! あの地獄から救ってくれたことを感謝してる!」
シュンタの言葉に合わせて、三人がミズトに頭を下げた。
「いえ……皆さんご無事でよかったです」
ミズトは本音だった。
「もう一人、『チーム世紀末』のクラマスは残念だったけど、この世界では覚悟しなければならないことだし、仕方ないことだと思ってる。それでも、助けてくれてありがとう、ミズト君!!」
三人は頭を上げると、笑顔をミズトに向けた。
積極的に人助けをしないミズトではあったが、あの光景を見てしまったのだ。彼らが笑顔を取り戻して良かったと、本気で感じていた。
「ところで――――」シュンタが言葉を続けた。
「本当はミズト君に聞きたいことは山ほどある。君はいったい何者で、なぜそんなに強くなったのか。やっぱり転生には何か秘密があるのか。でも……そんなことは全部置いておくことにしたよ。助けてもらった俺らは、その事実だけ受け止めて、これからはミズト君に恩を返していこうと決めたんだ! だから、俺らにとってミズト君はただのミズト君だ!」
「……」
シュンタの言葉は、ミズトへの心づかいから来ているのだと、よく分かった。
「それで、屋敷の所有権のことだけど、このままミズト君が持っていてくれ。俺らのクランはなくなったことだし、今返してもらうと、所有権が日本卍会になってしまうんだ」
「はい……?」
ミズトは予想外の話に戸惑った。
頼まれて預かっていたものを、返さなくていいと言われても困るのだ。
ただミズトは、三人のステータスを見ると、所属が『日本卍会』のままであることに気づいた。
(なあ、エデンさん。もしかして三人は、クランを抜けることができないのか?)
【クランを抜ける方法は三つあります。一つはクラン脱退をクランマスターが承認すること。二つ目はクランが解散すること。そして三つ目は、他のクランに移籍することです】
(チッ、あの時ジンって奴に承認させておけば良かったな)
このまま日本卍会に所属しているのは嫌だと思うので、ミズトは次にジンに会ったら承認させてやろうと思っていた。
「そういうことでしたら、もう少しお預かりいたします」
「悪いね、ミズト君。なので俺らは居候って形でよろしく!」
「よろしくね!」
「よろしくな!」
ナツキとトモハルもシュンタに続いた。
(…………あれ? もしかして四人で暮らすってことか?)
【はい。ここで所有者のミズトさんだけ宿をとって一緒に暮らさないのは、極めて不自然です】
(まあ、たしかにな……)
若者たちとシェアハウスのように暮らすのは少し抵抗があったが、一階にはタクマの店もあることだし、救出した手前、三人がこの後どうしていくか多少は見届ける義務もあるような気がした。
ずっと続ける気はなかったが、少しの間だけそういうのも悪くないのかもしれない、とミズトらしくないことを思っていた。
それから、またミズトの日常生活が戻った。
今までと違い他人と暮らすことにはなったが、食事はタクマの店がメインだし、彼らと部屋は別々。
同じ宿屋を借り続けていることとあまり変わらない気もした。
ミズトはシュンタたちとの日常を、少しずつ受け入れていったのだった。
第六章 完




