第220話 降臨の輝き
「こんな離れて、何をしようと言うんだ?」
ウィルが疑問を口にした。
ミズトたちは、入口から数キロメートルほど離れた丘の上にいた。
『グレイガント大回廊』がギリギリ見える位置だ。
「別に近くても遠くても構わないのですが、念のため距離をとりました」
ミズトはウィルたちに動かないよう伝えると、エレメントリウムの杖を取り出して、丘の上に立った。
ミズトが若いころに遊んだRPGで、カッコいいと憧れた魔法が二つあった。
一つは爆発系の魔法。爆発により敵全てにダメージを与える魔法は、あるRPG代表作の最強の攻撃魔法として誰もが憧れていた。
そしてもう一つは、別のRPG代表作に出てくる最強の攻撃魔法で、隕石を落として敵全てにダメージを与える魔法だ。
どちらも、せっかく異世界に来たのなら使ってみたいと思う魔法だったが、今回は後者を選んだ。
(なあ、エデンさん。ダンジョンの中はもうモンスターだけか?)
ミズトは、ダンジョン入口からモンスターが溢れ出しているのを見ながら訊いた。
【はい、すでに全ての方が『グレイガント大回廊』から脱出しております】
(そうか)
ミズトはエレメントリウムの杖を空に掲げた。
今のミズトは『ストーンバレット』の石の大きさや、発射位置、発射速度などを自由に調整できる。
普通の魔法使いなら、自分の周辺から小石を発射するだけの魔法でも、ミズトなら遥か上空に巨大な岩を出現させることが可能なのだ。
裸眼では見ることもできないが、『グレイガント大回廊』の真上百キロメートルの位置に直径十メートルほどの岩が出現している。
(エデンさん、マジックシールド頼んだぞ)
【そのまま全力でストーンバレットを撃ち込んだ場合、大陸は割れ、衝撃で全ての都市が崩壊し、粉塵が世界を覆って太陽が遮られ、全ての生物が死滅することを忠告します】
(…………は? だからマジックシールドで囲んでくれって言ったんだろ? ファイアストームの時と違って、上も蓋すれば粉塵が舞うことだってなさだそうし)
ミズトはエデンの忠告に手が止まった。
【たいへん残念ですが、マジックシールドは魔法防御壁を空中に出現させることができる魔法です。地中では使えないため、表面的な爆発は防げますが、地面を伝わる衝撃波は抑えられません】
(…………そういうことは先に)
【一つ提案がございます】
エデンがそう言うと、ミズトの目の前に四角い真っ黒な壁が出現した。
いや、あまりにも黒いため、暗黒の世界に繋がった四角い穴にも見える。
(これが何だ……?)
【こちらはスキル『界』の派生スキル『絶界』です。地中でも使用可能で、どのような力や事象も通さない究極の防御スキルになります。この『絶界』を利用すれば、周囲の影響を最小限に抑えることができます】
(なるほど、これでダンジョンを丸っと囲めばいいってことだな)
【はい、今のミズトさんが全力で魔法を撃っても問題ございません】
(…………分かった、『絶界』を使ってくれ)
ミズトは少し考えてから答えた。
すると『グレイガント大回廊』が黒い巨大な壁に覆われた。
光を通さない『絶界』は外から見ることができないが、大きな筒状の形をした黒い壁が、地中深くあるダンジョン丸ごと包み込み、ダンジョン最下層の下で蓋をしている。
上部だけが魔法を打ち込めるよう開いた状態だ。
【準備完了しました。いつでも構いません】
(よし、分かった)
ミズトは込める魔力を高めた。
岩をこれ以上大きくするわけではなく、魔力は岩の強度上昇に使われた。
そして残りの魔力は、岩の発射速度に変換される。
ミズトが全力で魔法を使うのは、セレニア共和国でのグリノス系モンスターなど五千体に向けて放ったファイアストーム以来。
しかし、その時に倒した五千体の経験値により、レベルはいくつも上昇し、エデンが伝えているように、ミズトは一撃で世界を滅ぼす力を持っていた。
さらにミズトは百万体のモンスターを倒すことで、またレベルが上昇することを理解していなかった。
そして、パーティを組んでいるとその膨大な経験値が分配されることも。
(いくぜ! メテオォッ!!)
「ストーンバレット」
ミズトが魔法を発動すると、上空百キロメートルに浮かぶ岩が、超高速で真下へと発射された。
隕石は火球となって太陽よりもまぶしく輝き、その通過だけで発生する衝撃波はまるで大陸全体を震わせるほどのエネルギーを帯びていた。
十メートルほどの岩は、人間の目では捉えきれない速度まで加速し、そのまま黒い筒に突っ込んでいくと、エデンでしか成しえない絶妙なタイミングで上部が閉じられた。
目撃者たちは、突如として現れた眩いばかりの光を浴びた直後に、凄まじい衝撃波に襲われるが、その後に訪れるはずの真の衝撃は漆黒の闇に包まれ、誰も感じとることはできなかった。
それでも大陸全体を照らす強烈な光を目撃した人々は、それが神の降臨による光の輝きと崇め、後にこの日を『降臨の日』と呼ぶようになった。
そして、その日を境に『グレイガント大回廊』は消滅し、地獄の底へと続く巨大な穴が現れたのだった。




