第216話 犯した罪に優る罰
「ゴミチビ! なんでケンスケたちが転がってんだ! そいつらの首輪はどうした!」
ジンが怒鳴り散らしながら、ずんずんと進んでくる。
「質問の多い方ですね。少しは自分の頭で考えたらいかがですか?」
ミズトはジンに振り返ると、言葉とは違って、厳しく問い詰めるように言った。
「ああ? ゴミチビ、誰と口きいてんのか分かってんのか?!」
「もちろんです。身体だけ大きくて、脳みそに栄養が届いていないお子ちゃまに言っているのです」
ミズトもジンに向かって歩き出す。
「なんだとぉ、てめえぇ?! ゴミチビ、秒で後悔しな!!」
ジンはミズトに向かって飛び出した。
覚醒石による青い光は消えていたが、クランスキル『血戦』による赤い膜には覆われたまま。
ジンの言う通り『インパクトマスター』は異界人が就けるクラスの中では、一撃の強さは最強と言われている。
今のジンの攻撃なら、ほぼすべての異界人を一撃で殺すことさえできた。
しかし、ミズトはその拳を簡単に避けた。
「なに!? まぐれで避けやがったか?! だがよ!!」
今度はジンの長い脚が、ミズトの頭部めがけて繰り出された。
しかしそれも空を切る。
「!? ゴミチビ……てめえ、まさかウィザードってのは偽装か? 武闘家系かシーフ系クラスじゃねえかぎり、今のが避けられるはずがねえ!!」
「…………ふう」
ミズトはジンの言葉を無視して、気持ちを落ち着かせるように大きく息を吐いた。
人が人を裁くことは正しくない。人を裁くべきは法である。
何かのドラマで言っていた、そんな言葉をミズトは思い出した。
法治国家である日本では、それが正しいのは間違いないだろう。
しかし、日本の法律も適用されないこの世界では、目の前の男を誰が裁くのだろうか。
このまま野放しにして、さらなる犠牲を出すことが正しいと言えるのだろうか。
ごく普通の価値観を持っていると自覚しているミズトの答えは、ノーだった。
この男には罰が必要だ。更生なんかを期待する必要もない。
ただただ、犯した罪に優る罰を与えなければならない。
(これも、俺が気持ちを晴らしたいだけかもしれないが……)
【いいえ、ミズトさんが晴らしたいのは、ご自分の気持ちではなく、シュンタさんたち含む犠牲者の方々の気持ちです】
エデンがミズトの考えを修正した。
(…………)
「あなたに来ていただいて助かりました」
ミズトはジンに言った。
「あ? てめえ何言ってやがんだ?」
「………………だからさ、お前みたいな奴を、こうやって直接ぶん殴る機会があって良かったって言ってんだ」
ミズトは何かを決心すると、頭の中がクリアになり、本心が言葉に出るようになった。
「このゴミチビ……急に変わりやがった」
「戦いが好きなんだろ? じっくり俺が相手してやるよ。ほら、かかってきな」
ミズトは見下すように言った。
「ガーハッハッハッ!! 少し避けたぐらいで、ゴミチビが生意気なこと言うじゃねえか! 格の違い、すぐに教えてやるよ!!」
ジンは構えをとった。今度は外すつもりはないと、ミズトを睨みつける。
(エデンさん、一発で動けなくなったら罰にならねえ。もう少し調整してくれ)
【承知いたしました、仰せのままに】
エデンは今回もミズトの意図を読み取り答えた。
「しゃらくせえ! ゴミチビが、一発で沈むんじゃねえゾ!!」
ジンが、先ほどのような大振りはせずに攻撃する。
しかし、ミズトは同じようにジンの拳を避けた。
ジンはそれを想定していたかのように、構わず連続で攻撃を繰り出す。
だがミズトは、それらをすべて、あざ笑うようにかわしていく。
数分の間、ジンの拳と脚が空を切る音だけが鳴り響いた。
「ゴミチビ……てめえ、何をしてやがる? てめえが偽装してレベル59の武闘家だったとしても、俺様の攻撃をここまで避けれるはずがねえ。物理攻撃が当たらねえクエストアイテムでも使ってやがんのか?」
さすがのジンも、状況が理解できずに警戒しだしていた。
「は? お前の攻撃がノロ過ぎて当たんねえだけだ。威勢だけのお子ちゃまは、そんなことも分からないのか?」
「この……ゴミチビがぁ!! 舐めた口きいてんじゃねえ!! どんな汚ねえ手を使ってやがんだ!!」
ジンは声を上げるたびに攻撃するが、かすることさえできない。
「クソが……! 当たりさえすれば……てめえみてえなゴミチビ、当たりさえすれば一撃なのによ!!」
「そうか。じゃあ避けねえから、殴ってみろ。ほら、好きなだけやってみろ」
ミズトは頬を出しながら、薄ら笑いを浮かべて言った。
(エデンさん、俺へのマジックシールドは不要だ)
【承知いたしました】
「ほら、遠慮するな。殴るのが好きなんだろ?」
ミズトは殴りやすいように、一歩前へ出た。
「ゴミチビが、調子に乗ってんなぁぁぁっ!!!」
ジンは怒りに任せてミズトを殴りつけると、今度はミズトの顔面に命中した。
「!!! ガーハッハッハッ!! 調子に乗ってっからだ!!」
「いちいちバカ笑いしてんな、ガキが」
ミズトが顔面に拳を受けたまま言った。
「なん……だと……?」
ジンは驚いて拳を引くと、無傷のミズトが薄ら笑いを浮かべたまま見ていた。




